2020 Fiscal Year Annual Research Report
ハイブリッド触媒系による多成分連結型連続反応の開発と全合成への展開
Project Area | Hybrid Catalysis for Enabling Molecular Synthesis on Demand |
Project/Area Number |
17H06452
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
井上 将行 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 教授 (70322998)
|
Project Period (FY) |
2017-06-30 – 2022-03-31
|
Keywords | ハイブリッド触媒 / 触媒・化学プロセス / 合成化学 / 全合成 / 天然物 |
Outline of Annual Research Achievements |
多くの酸素官能基や四置換炭素を有するタキソールに代表される官能基密集型天然物は、タンパク質を介した信号伝達の新たな制御試薬や革新的な医薬品を提供するための重要なリード構造になる潜在性を持っている。しかし、自然界からの単離は困難であることが多く、創薬応用のためには全合成が必要である。我々はラジカル反応の全合成へ応用してきた。炭素ラジカルを用いた炭素-炭素結合形成反応は、穏和な中性条件下、高化学選択的に進行するため、有機合成化学の観点から極めて有用である。2020年度は、橋頭位ラジカルを用いる新規四置換炭素構築法およびアルデヒドをラジカル受容体として用いる新規収束的戦略を開発した。 タラチサミンは、高度に縮環した6 環性骨格上に、3つの四置換炭素を含む12 個の連続する不斉炭素を有する。特に4つの環の縮環部であるC11 位第四級炭素は構築困難である。我々は、水銀ランプ照射下、フェナントレンと1,4-ジシアノベンゼンを用いると、カルボン酸から橋頭位ラジカルが発生し、C10, C11位不斉炭素が立体選択的に構築されることを発見した。本新規四置換炭素構築法により、タラチサミンの4環性骨格が効率的に合成できた。 ヒキジマイシンは、シトシン、3-デオキシ-3-アミノグルコースおよび10連続不斉中心を有するヒコサミン部位からなる官能基密集型天然物である。我々は、Et3Bと酸素を用いるα-アルコキシ炭素ラジカルのアルデヒドへの分子間付加反応を開発した。本反応を鍵工程として、ヒキジマイシンの効率的全合成を達成した。同様の収束的戦略を、9つのヒドロキシ基および9連続不斉中心を持つジオスピロジンの全合成および抗腫瘍活性物質LLY-283の合成に応用した。これらの収束的合成戦略では、余分な炭素鎖伸長および続く立体選択的な酸素官能基導入を回避できるため、合成ルートが圧倒的に簡略化できる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
官能基密集型天然物の高度に酸化された炭素骨格は、極めて合成困難である。さらに、立体障害の大きい四級炭素が存在する場合、利用可能な反応は大きく限定される。そのため、どのような反応が利用可能であり、合成を効率化するかを、様々な官能基密集型天然物の骨格をプラットフォームとして、精密に調査した。その結果、極めて温和な条件下、立体障害が高いC-C結合を形成できる様々な反応を実現した。 橋頭位ラジカルは、立体反転が不可能なsp3ラジカルであり、反応点近傍の立体障害が最小化されているため、第四級炭素の立体特異的な構築に有用である。しかしその発生方法は極めて限られていた。我々はタラチサミンの合成研究において、水銀ランプ照射下、フェナントレンと1,4-ジシアノベンゼンを用いて、カルボン酸から橋頭位ラジカルを発生させ、4環性骨格を構築した。本反応は、合成容易なカルボン酸を前駆体とし、立体障害の高い結合が温和な条件で形成できるため、官能基密集型天然物の全合成に有効である。 アルデヒドに対するラジカル付加反応で第2級アルコールを構築することは、分子内反応でさえ実現困難であった。これは、付加により生じた不安定なオキシルラジカルからアルデヒドへの逆反応が優先するためである。我々は、Et3Bと酸素を用いる条件では、オキシルラジカルを有効に捕捉できることに着目し、新規収束的戦略を開発した。本反応は、高度に酸化された飽和炭素鎖上のアルデヒドだけでなく芳香族アルデヒドへも適用可能であり、ヒキジマイシン、ジオスピロジンおよびLLY-283の効率的合成が実現できた。これらの合成は、ラジカルを用いた複雑骨格構築反応の実用性の高さを示している。 以上のように、官能基密集型天然物の収束的全合成へのハイブリッド触媒系の活用のために、多角的に研究を推進しており、申請書記載の課題を順調に進展させている。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでに、官能基密集型天然物の全合成のためのラジカル反応を基盤とした様々な戦略の探究と最適化を達成してきた。開発した官能基許容性が高い収束的合成戦略は、複雑な分子構造を容易に合成可能な多官能基化されたフラグメントから1工程で構築できる。用いる反応の広い基質適用範囲、単純な試薬条件および温和な反応条件ゆえに、これらの強力な収束的合成戦略は、新しい逆合成解析を可能とし、高酸化度天然物の迅速な全合成に寄与する。 現在までに、多様な収束的戦略を開発し、レジニフェラトキシン、5-エピオイデスム-4(15)-エン-1β,6β-ジオール、ヒキジマイシンやタキソールの天然類縁体である1-ヒドロキシタキシニンの全合成を達成した。開発した官能基許容性が高いラジカル連結反応は、複雑な構造を持つ部分構造の連結できる独創的な方法として、官能基密集型天然物の迅速な全合成に寄与してきた。また、官能基密集型天然物の新しい逆合成解析を提案してきた。一方、開発したラジカル連結反応は、ラジカル発生部位に均等開裂に適した結合を持つ基質を使用し、当量以上の試薬を使用する必要があった。ラジカル発生部位を容易に合成できるカルボン酸に統一し、ハイブリッド触媒による革新的な連結反応を具現化する。これらの実現によって、官能基密集型天然物の全合成ルートを飛躍的に単純化・短縮化し、現在ある合成論理を刷新する。また、どのような反応が利用可能であり、合成を効率化するかを、タキソール骨格だけでなく様々な官能基密集型天然物の骨格をプラットフォームとして、一般化する。ハイブリッド触媒系の開発では、領域の班員の触媒化学分野における成果を活用し、緊密な共同研究も推進する。ラジカル連結反応により得られた骨格から、官能基変換を経てタキソールなどの官能基密集型天然物を全合成する。
|
Remarks |
藤野遥 The Reaxys PhD Prize 2020ファイナリスト 福田卓海 第18回次世代を担う有機化学シンポジウム 優秀発表賞「ヒキジマイシンの収束的全合成」 伊藤寛晃 2021年度日本薬学会奨励賞「ペプチド系複雑天然物の全合成を基盤とした機能解明・新機能分子創出」http://www.f.u-tokyo.ac.jp/topics.html?page=1&key=16076651171.
|
Research Products
(32 results)