2010 Fiscal Year Annual Research Report
Project Area | Matrix of Infection Phenomena |
Project/Area Number |
18073004
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
北 潔 東京大学, 大学院・医学系研究科, 教授 (90134444)
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Keywords | 感染症 / 酵素 / 進化 / 発現制御 / 発生・分化 |
Research Abstract |
我々は回虫やトリパノソーマなどの寄生虫と宿主であるヒトのミトコンドリアを用いて酸素適応機構の解明を目的として研究を進めているが、中でも嫌気的な小腸に生息する回虫成虫で見出したNADH-フマル酸還元系は多くの寄生虫に存在し、宿主体内の環境で中心的な役割を果している事が明らかになった。この系は複合体I(NADH-ユビキノン還元酵素)、ロドキノンおよび複合体II(ロドキノール-フマル酸還元酵素:RQFR)の3成分から構成され、NADHからフマル酸への電子伝達を触媒している。その生理的意義は低酸素下でも複合体Iの共役部位を駆動する事によりATPを合成できる点にある。一方、発生に酸素を必要とする幼虫では哺乳類型の酸化的リン酸化によってATPを合成している事も判ってきた。そこで本研究ではNADH-フマル酸還元系の分子構築とその生理機能の特徴を明らかにし、生活環におけるダイナミックな呼吸系の変動の制御機構を解析する目的で研究を進めている。平成22年度は以下の結果を得た。 1)受精卵、幼虫および成虫における複数の多様な複合体IIの分子構築と電子伝達機能:これまでの研究結果から受精卵、虫卵の中で発生中の幼虫、宿主体内に感染後の宿主体内を移行中の幼虫、そして小腸に生息する成虫の複合体IIを構成するサブユニットが異なり、好気的なコハク酸酸化と低酸素下のフマル酸呼吸を支えている事を明らかにして来た。その中で、幼虫が最終的寄生部位である小腸に到達し成虫へと成長する前のステージのヤングアダルトについての情報が皆無であった。そこで、ブタ回虫を固有宿主であるブタに感染させた実験を行った所、アンカーサブユニットであるCybSは成虫型であるが、触媒サブユニットのFpは一端幼虫型が増加する事が判った。 2)宿主体内移行を含む、全生活環におけるミトコンドリア機能の変動とその調節機構:上記の様な生活環における複合体IIの各サブユニットのステージ特異的発現を調節している機構を明らかにする目的で哺乳類や自由生活性線虫で低酸素適応に関与している転写因子HIF-1について解析を行った。α、β両サブユニットをクローニングした所、両者ともに他の生物種に比較して短いペプチドから構成され、回虫特有の調節機構が示唆された。
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