2018 Fiscal Year Annual Research Report
生体発動分子の創成:自然界の生体分子の改造とゼロからの設計
Project Area | Molecular Engine: Design of Autonomous Functions through Energy Conversion |
Project/Area Number |
18H05420
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Research Institution | National Institute of Information and Communications Technology |
Principal Investigator |
古田 健也 国立研究開発法人情報通信研究機構, 未来ICT研究所フロンティア創造総合研究室, 主任研究員 (40571831)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
古賀 信康 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(新分野創成センター、アストロバイオロジーセンター、生命創成探究, 生命創成探究センター, 准教授 (50432571)
小杉 貴洋 分子科学研究所, 協奏分子システム研究センター, 助教 (00771388)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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Keywords | 生物分子モーター / DNAナノテクノロジー / タンパク質デザイン / ATP加水分解酵素 |
Outline of Annual Research Achievements |
新規リニア型分子モーターの開発に関して、既存の分子モーター・ダイニンとDNA結合タンパク質を組み合わせて新たなDNAベースの分子モーターを開発することに成功した。さらに、DNAオリガミと呼ばれる定形のカーゴに新規タンパク質を整列させ、DNAナノ構造体で構成されたレールの上を長距離(μm程度まで)走らせることに成功し、論文にまとめる段階に到達した。また、これまでに開発したDNAレールの上を走るモーターを拡張して、異なる認識配列を持つ複数のモーターシステムの開発に成功した。 ATPに結合する生体分子の設計に関しては、まずATPのリン酸基に結合する特徴的なモチーフ構造であるP-loopモチーフを含んだ安定なタンパク質の構造を創ることを試みた。構造を設計してみると、P-loopを導入することは予想以上に難しいことが明らかになった。そこで、さまざまなトポロジーと二次構造の長さのタンパク質構造を計算することで、P-loopを導入するために最も適した部分構造を探した。次に、この部分構造の末端に二次構造を追加することや別の人工タンパク質を融合していくことで、ATPのアデニンとリボース部分に結合する場所の設計を試みた結果、ATPが結合すると予想される構造がいくつか得られた。そこで、これらの候補タンパク質を大腸菌を用いて発現し、精製した。これらのタンパク質のCDスペクトルを測定すると、その多くが設計通りの二次構造を持っており、さらに、SEC-MALS やNMRによって単量体かつ安定な三次構造を形成していることがわかった。そこで、様々な結合活性の測定方法でATP結合能を測定することを試みた。ところが、これらの設計タンパク質のいずれに関しても、そのATP結合活性を検出することができなかった。そのため、より高い結合活性を持つタンパク質を設計する方法を模索し、設計方法を見直しつつあるところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当座の目標であったDNA上を動くリニア型の分子モーターの開発に成功し、これらの運動が通常の光学顕微鏡レベルの機器で検出可能であることから、これらのモーターが微小分子の選別や濃縮などの用途に使用可能なレベルの速度と運動連続性を持つことが示された。 また、ATPに結合する分子の設計に関し、当初の予想よりもATPに結合する生体分子を設計することが困難であったが、トポロジーや二次構造の長さが異なる多様な構造を数多く計算するなど、さまざまな工夫を行った結果、ATPを結合すると予想される構造が得られた。さらに、それらのタンパク質に対して実験による検証を行ったところ、安定な三次構造を形成していることがわかった。ところが、これまで試みた結合能を測定する方法では、それらのATP結合能を測定することはできなかった。これは、設計タンパク質のATP結合活性が非常に低いことを示唆している。ATP結合能は確認できなかったが、少なくともATPに結合するために必要なモチーフを導入しつつ、安定な構造を得ることはできた。さらに、今回の設計で得られた知見を基にして、ATP結合能を持つデザインをする指針も得られた。それを基にして次の設計を行うことが可能である。そのため、研究はおおむね順調に進んでいると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
新規リニア型分子モーターの開発に関しては、今後、異なる認識配列を持つ複数のモーターシステムを共存させた系を作り微小な荷物を輸送する実験系を実現する。この輸送系を利用して、極小サイズの「ナノ工場」のプロトタイプを作る。 ATPに結合する分子の設計に関しては、今後、今回のデザインで得られた知見を基にして、引き続き計算を積み重ね、ATPに強く結合する生体分子をde novo デザインしていく。特に、安定な構造を得られることはわかったので、安定な構造を維持しつつ、結合活性を持つものを設計することに集中する。より結合活性の強いタンパク質を設計するために、P-loopをより安定に保つことや、アデニンやリボースへの結合部位をより精密に設計していくことを試みる。同時に、実験方法の改善も考えていく。これまで試みた結合活性測定の実験手法は、大量の候補の測定には向いていなかったため、10個程度の設計タンパク質しか検証できなかった。また、結合活性の弱いものの測定にも向いていなかったため、弱く結合しているデザインを見落としている可能性がある。そこで、結合能の弱い多くの候補に対して、効率的にATP結合活性を測定できるような実験方法の構築も行っていく。 並行して、天然から得られる分子モーターに関して、以下のような研究を進めることも検討している。天然の分子モーターの近縁種の中には、進化の過程でATP結合能を失い、ATP加水分解能を持たない分子種が存在する。これは、ATP加水分解能を持つモーターとペアになることで、その分子モーターの運動機能を制御していると考えられている。そこで、この分子の構造を人為的に改変し、言わば進化をさかのぼって再びATP結合ができるように再デザインする。このような近縁種の再デザインによる構成論的な手法によって、分子モーター自体の基本的な設計原理を理解するような実験を進めたいと考えている。
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