2018 Fiscal Year Annual Research Report
ストレスによる認知情動変容を担う多階層プロセスと精神疾患への関与の構成的理解
Project Area | Constructive understanding of multi-scale dynamism of neuropsychiatric disorders |
Project/Area Number |
18H05429
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
古屋敷 智之 神戸大学, 医学研究科, 教授 (20362478)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
那波 宏之 新潟大学, 脳研究所, 教授 (50183083)
澤田 誠 名古屋大学, 環境医学研究所, 教授 (10187297)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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Keywords | ストレス / 精神疾患 / 多階層オミクス / 神経回路 / in silicoモデル |
Outline of Annual Research Achievements |
社会環境から受けるストレスは、短期的には適応反応を引き起こすが、長期的には生体恒常性の破綻をきたし、精神疾患のリスク因子となる。しかし、ストレス感受性制御を司る個体―回路―細胞―分子の階層間を繋ぐ因果律は不明である。本研究は、ストレス刺激による各脳領域・細胞種での多階層分子変容を同定し、神経回路の機能・形態変化をシナプスから局所・広域回路に亘り可視化し、各種神経細胞培養系も駆使し、ストレス感受性制御のin silico モデルを創成する。分子・光・化学遺伝学的操作によりin silicoモデルの妥当性とストレス感受性との関連を示し、ストレス感受性操作・正常化を試みる。この戦略により、精神疾患病態を担う因果律の同定と正常化のための手法の開発を目指す。 本年度は、社会挫折ストレス前後のマウスのmPFCからミクログリアを単離してエピゲノム解析を進め、その標的遺伝子に関する知見を得た。LMDを用いたトランスクリプトーム解析の条件検討を行った。三次元電顕を用い、社会挫折ストレスによる神経細胞やグリア細胞の微細構造変化に関する知見を得た。初代培養ミクログリア細胞の実験系を立ち上げ、社会挫折ストレスによる情動変容に必須である自然免疫受容体のシグナル伝達を制御する転写因子を探索するとともに、培養ミクログリア細胞を用いたトランスオミクス解析のための条件検討に着手した。並行して、統合失調症モデルラットが陰性鳴き声に近い20kHzで特異的に音響ストレス感受性を示すこと、前頭葉ドパミン亢進をDREADD法で抑制すると音響ストレス感受性ではなく社会ストレス感受性だけが低下することを見出した。また独自に開発したLMD-質量分析法を用いて、ストレスによる脳機能変化をシナプス~単一神経細胞~局所神経回路での機能分子の網羅的分析により調べるための準備を整えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、社会挫折ストレスモデルを用いて、mPFCのミクログリアに選択的なエピゲノム解析を進めるとともに、LMDを用いたmPFCのミクログリアに選択的なトランスクリプトーム解析の条件検討を進めることができた。三次元電顕により神経細胞やグリア細胞の微細構造変化の解析を進めることができた。培養ミクログリア細胞を用い、社会挫折ストレスによる情動変容に必須である自然免疫受容体シグナル伝達に関わる転写因子に迫る知見を得るとともに、自然免疫受容体のシグナル伝達経路のトランスオミクス解析の条件検討にも着手することができた。並行して、統合失調症モデルラットでは、高い音響ストレス感受性や新奇ラットに対する社会行動不安を有することが確認され、ヒトにおける患者の幻聴や陰性症状との関連性を示唆することができた。痙攣誘発モデル動物の海馬錐体細胞の単一細胞でのLMD-質量分析を行い、この実験手法によりストレス刺激時の脳機能の変化を単一神経細胞で解析できることを確認することができた。以上の研究成果から、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、本年度の研究成果をもとに、社会挫折ストレス前後のマウスのmPFCのミクログリアでのエピゲノム解析をさらに推進するとともに、LMDを用いたトランスクリプトーム解析など他のオミクス解析やミクログリア以外の細胞種での解析も導入したい。三次元電顕で同定しつつある社会挫折ストレスによる神経細胞やグリア細胞での微細構造変化の分子機序を解明し、この微細構造変化を操作する分子操作技術を開発して、神経・シナプス活動や情動変容との因果関係に迫りたい。自然免疫受容体のシグナル伝達経路に着目したトランスオミクス解析を実現し、そのin silicoモデルをもとに社会挫折ストレスによるミクログリア活性化を担う分子ネットワークに迫りたい。統合失調症モデルラットでは音響ストレス感受性と前頭葉ドパミン活動との関連性は示せなかったが、今後、扁桃体などその責任脳回路の同定が待ち望まれる。LMD-質量分析が神経細胞の機能変化の分析に有用であることから、種々のストレスモデルでの分析を実施したい。さらに、精神疾患で生じるとされる単一シナプスの変化の解明を目指し、空間分解能を1μmに向上する改良を検討したい。
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