2019 Fiscal Year Annual Research Report
Project Area | Constructive understanding of multi-scale dynamism of neuropsychiatric disorders |
Project/Area Number |
18H05434
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
林 康紀 京都大学, 医学研究科, 教授 (90466037)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
喜田 聡 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (80301547)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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Keywords | PTSD / 記憶 / シナプス可塑性 / コフィリン / 樹状突起スパイン |
Outline of Annual Research Achievements |
シナプス伝達は脳における情報の処理と保持の基本素子である。その異常はPTSD、認知症、アルツハイマー病といった記憶・学習障害、統合失調症やうつ病の発症に関与することが示唆されている。その異常を解明し、それが神経ネットワークにおける神経細胞の挙動にいかなる影響を及ぼすかを理解することは、病態解明と治療戦略を立てるためにも重要である。しかし、ある精神疾患の発症に当たり、どの脳領域のどのシナプスで、どんな異常が起こっているかを解明する術はなかった。例えば、特定の遺伝子変異が決定因である場合は、その変異をノックインしたマウスが解析されてきたが、多くの内的(遺伝素因)並びに外的(戦争や災害など外的要因など)危険因子が複雑に組み合わさって発症する精神疾患についてはそういったアプローチは難しかった。 林は記憶学習の分子機構に興味を持ち研究を続けてきた。特に、興奮性シナプスの場である樹状突起スパインが、シナプス可塑性に伴い形態変化を起こすことを示し、シナプス構造可塑性の概念を打ち立てた。その過程でアクチン結合タンパク質であるcofilinがLTP後にシナプスに集積し、拡大したスパインを安定化することを見出した。そこで本研究では新たな光遺伝学的手法を用いて、cofilinを光不活化することを試み、一旦成立した恐怖記憶を消去できるかを確認する。特にモデル動物に応用することで、PTSDを始めとする精神疾患の発症に関わる細胞・シナプスの同定と、それを改善する技術の開発を行う。その上で、喜田らが見出した、記憶想起による一過性の「不安定化」現象に適用することで、PTSDで観察される病的記憶の消去を試みる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究開始前に光増感タンパク質SuperNova (SN)とcofilinの融合タンパク質、cofilin-SNを発現させた神経細胞では長期増強現象(LTP)を光で解除することが可能であることを示した。それを利用するとどこのシナプスでいつシナプス可塑性が生じたことが、記憶に必要であるかを知ることができる。この性質を用い文脈依存的な恐怖記憶(抑制性回避)に必要なシナプス可塑性がいつ生じるかを検証した。その結果、海馬CA1領域では恐怖刺激20分以内に光を照射した時のみ記憶が解除できた。これは生体外でのスライスでの結果とほぼ一致した。 記憶は一旦海馬で成立するが、時間が経つと大脳皮質など他の領域に移行していく。我々はこの段階で、再度LTPが起こると考えた。特に睡眠中に再度神経細胞の活性化が起こることが知られているため、その時に再度LTPが起きているのではないかと考えた。そこで睡眠中にLTPを消去することを試みた。このため自動的に睡眠状態を検出し、20分以上睡眠あるいは覚醒が連続した後にのみ光を照射した。この結果、睡眠中に光を照射した時にのみ記憶が消去された。しかし2日目の照射では影響がなかった。 一方、文脈依存性の恐怖記憶は海馬で成立するため、海馬が恐怖記憶の消去にも中心的な役割を果たすと想定される。そこで、チャネルロドプシン(ChR2)あるいはアーキロドプシンTを用いて恐怖記憶想起後の海馬の活性化と不活性化の影響を解析した。その結果、想起後に海馬の記憶エングラムを不活性化させた場合には恐怖記憶が失われるのに対して、LTDを誘導する低頻度刺激を与えると恐怖記憶消去様の行動変化が現れることが明らかとなった。このように、恐怖記憶想起中の海馬におけるLTD誘導(脱増強)を介して恐怖記憶消去が導かれるメカニズムの存在が示唆されている。
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Strategy for Future Research Activity |
海馬は記憶が一番初めに形成されるところであり、シナプス可塑性が起こるのは限られたタイミングであることが本研究で確認されている。PTSDの治療へ応用するためには、長期記憶を消去しなければならない。この目的のため、喜田らが見出した、記憶想起による一過性の「不安定化」現象に適用することで、PTSDで観察される病的記憶の消去を試みる。これは、恐怖記憶を起こした空間に再暴露するものであり、これにより記憶が不安定となる。喜田らは、これがCREBシグナルを介していることを示しており、単に受動的に記憶を忘却しているのではなく、何らかの能動的なメカニズムにより記憶が不安定化されていると考えられる。そのため、文脈への再暴露により記憶が不安定化になった時間枠に一致して、CALIを行い、記憶が消去される脳部位を検討していく。海馬では記憶形成直後に消去を行ったが、本実験では、長期記憶(例えば1週間から1ヶ月程度)が形成された後、文脈へ再暴露をするが電気ショックは与えない。その上で、異なった脳領域で光照射によりcofilinを不活化する。候補とする脳領域は、海馬の他、前帯状皮質、海馬と前帯状皮質と双方向性の結合がありかつ記憶に関与することが知られている脳梁膨大後部皮質、情動記憶に関与するとされている扁桃体とする。それぞれの部位にアデノ随伴ウイルスベクターを用いてcofilin-SNを発現する。また光ファイバーを両側に挿入し593nmレーザーを導入する。この上で、再度記憶成績を検討し、長期記憶が消去される脳部位を探していく。
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[Journal Article] Distinct mechanisms of over-representation of landmarks and rewards in the hippocampus2020
Author(s)
Masaaki Sato, Kotaro Mizuta, Tanvir Islam, Masako Kawano, Yukiko Sekine, Takashi Takekawa, Daniel Gomez-Dominguez, Alexander Schmidt, Fred Wolf, Karam Kim, Hiroshi Yamakawa, Masamichi Ohkura, Min Goo Lee, Tomoki Fukai, Junichi Nakai, Yasunori Hayashi
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Journal Title
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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