2021 Fiscal Year Annual Research Report
Project Area | Constructive understanding of multi-scale dynamism of neuropsychiatric disorders |
Project/Area Number |
18H05434
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
林 康紀 京都大学, 医学研究科, 教授 (90466037)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
喜田 聡 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 教授 (80301547)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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Keywords | 記憶固定化 / PTSD / 恐怖記憶 / 記憶再固定化 / 光増感法 / コフィリン / 前頭前野 / 海馬 |
Outline of Annual Research Achievements |
記憶は、記憶された出来事や文脈に再暴露されると、一旦不安定となるが、再度シナプスの可塑的変化が起こることにより強化される。この現象は記憶再固定化としられる。これが異常に亢進し、恐怖記憶が本来結び付けられる筈のない記憶と結びついた状態がPTSDや恐怖症であると考えられる。我々はこれまでに再固定化の神経回路機構に興味を持ち、どの脳領域でシナプスの可塑性が起こっているかを検討した。このために光増感タンパク質を用い、LTPを選択的に解除する新規光遺伝学的手法を立ち上げた。これは光増感法により細胞骨格タンパク質で、LTP誘導によりシナプスに集積しアクチンを安定化するコフィリン不活化するものである。予備実験にて海馬にこれを用いたところ、再固定化によって強化された記憶を再固定化前のレベルまで消去することに成功している。しかし完全に記憶を消去するには至らなかった。再暴露までに記憶が海馬から他の脳領域に固定化されているためと考えられる。
恐怖記憶想起中や想起後の海馬CA1領域や前頭前野における記憶エングラムの活性を光遺伝学的に操作することで、恐怖条件づけ文脈記憶及び受動的回避記憶消去誘導のメカニズムの解析を進めた。前年度に同定した海馬において恐怖記憶消去様の行動変化を誘導する刺激パターンによる行動変化の性状を解析し、消去と同様に遺伝子発現依存的であること、また、消去と同等の生化学的変化が起こることが明らかとなった。一方、PTSDとcAMP情報伝達が関連すると考え、cAMP情報伝達を操作する光プローブを海馬に発現させて恐怖条件づけ文脈記憶に対する影響を解析した結果、cAMP濃度上昇によって恐怖記憶想起と再固定化が増進され、一方、cAMP濃度低下によってこれらが阻害されることとが明らかとなった。さらに、RNA-Seq解析を実施し、想起後の恐怖記憶増強に関与するcAMP情報伝達因子群の同定を試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
仮説から予想された結果が出つつあるため。
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Strategy for Future Research Activity |
そこで、一旦固定化された異常な恐怖記憶の完全消去を目指し、脳のどの領域で再固定化が起こるかを検証する。このため、Arc-GFPの発現あるいはシナプスでのGFP融合コフィリンの集積を指標に、恐怖記憶に対する再固定化が起きる領域を全脳で検索していく。当初の記憶から記憶事象への再暴露の時間間隔によって、関与する脳部位が異なる可能性があるので、記憶後1日から5週間の時間間隔をとる。Arc-GFPの発現やGFP-コフィリンの集積でシナプス可塑性が起こっていそうな領域が絞られれば、その領域に上記の光遺伝学的ツールを発現し、光照射により記憶が完全に消去できるかを検討していく。一方、シナプス可塑性が起こっているかはシナプス反応のAMPA受容体反応/NMDA受容体反応の比を取ることにより確認する。これにより、PTSDや恐怖症に対する治療法とレジリエンス向上を目的としていく。
恐怖記憶想起中や想起後の前頭前野における恐怖記憶関連のエングラムの活性を光遺伝学的に操作することで、記憶エングラムによる恐怖記憶再固定化と恐怖記憶消去の制御機構について引き続き解析する。また、PTSDの病態とcAMP情報伝達経路の過活性化が関連するとの仮説を立てて、前年度に引き続き、この仮説の検証を継続する。受動的回避反応課題では恐怖記憶想起により再固定化を介して恐怖記憶が増強されるため、この系における恐怖記憶増強に対するcAMP情報伝達経路の役割を解析する。前年度に引き続き、この系を用いたRNA-Seq解析を継続し、想起後に発現変動するcAMP情報伝達因子群の同定を進める。さらに、同定された遺伝子群とPTSD患者の血液から調整したRNAの遺伝子発現プロファイルと比較することで、PTSDの病態とcAMP情報伝達経路との関係性を解析する。
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