2019 Fiscal Year Annual Research Report
Materials design of high-entropy alloys accelerated by synergistic combination of computational thermodynamics and simulation of phase transformations
Project Area | High Entropy Alloys - Science of New Class of Materials Based on Elemental Multiplicity and Heterogeneity |
Project/Area Number |
18H05454
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
小山 敏幸 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (80225599)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
陳 迎 東北大学, 工学研究科, 教授 (40372403)
阿部 太一 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 構造材料研究拠点, 主幹研究員 (50354155)
大谷 博司 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (70176923)
及川 勝成 東北大学, 工学研究科, 教授 (70356608)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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Keywords | 状態図 / 拡散 / 第一原理計算 / 計算熱力学 / 拡散係数 / 機械学習 / 逆問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
クラスター展開・変分法に基づく理論状態図計算から、HEAは原子間相互作用が弱く理想溶体に近い挙動を示し、液相の自由エネルギーにてHEA形成傾向を予測できる可能性が示唆された。モンテカルロ計算で解析した全系で短範囲規則化が確認された(大谷)。HEA固溶体では低成分系の原子間相互作用が平均化され理想溶液に近づくと推察された(阿部,大沼,韓)。第一原理電子状態計算から、Cr原子基底状態の反強磁性構造によりCrとその周囲の他種原子間で電荷移動が生じ、Ef近傍にアンチボンディング電子が増加して系が不安定化することが示された。また異なる原子サイズによる格子緩和で低エネルギー状態が実現される点も示唆された(陳,Tran Nguyen Dung)。 HRA系の熱力学DBであるTCHEA3、PanHEAおよびNIMS-DBによる計算状態図と、平衡組成の実験値を比較した結果、Fe-Co-Mn三元系でσ相の安定性に差が出ること、およびFe-Co-Ni系とCo-Mn-Ni系の磁気変態に関する熱力学パラメータに修正が必要であることが明らかとなった(阿部,大沼)。さらにCr-Mn-Ni三元系のFCC/BCC相境界の計算と実験の差は、三元相互作用を導入することなく、二元系側のパラメータ精査で改善されることが示された(及川,上島)。 HEAの原子拡散に関しては、Cantor合金中の空孔生成エンタルピーが構成元素のそれと大差ないことから、空孔生成の観点からSluggish-Diffusion(SD)は説明できないことが示唆された(阿部,大沼,韓)。さらに多成分系の拡散理論からSD は導かれないことも示された(小山,上島)。また拡散対の実験データから、熱力学パラメータと拡散係数を推定するアジョイント法を改良し、複数の拡散対濃度プロファイル情報を同時活用する新手法を構築した(小山,上島)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度の主要な目標は以下の2点であった。 (1)HEA固溶体のギブスエネルギー関数は、広義の正則溶体モデルでよいのか、それとも会合溶液モデルや擬化学モデルなどの局所クラスタリングを陽に考慮したモデルが必要なのかを明らかにする。 (2)CALPHAD法における熱力学および拡散理論の両面から、多成分系の拡散の特徴を理解することにより、Sluggish-Diffusionの本質を明確化する。
2019年度の成果から、(1)のHEA固溶体のギブスエネルギー関数式については、広義の正則溶体モデルでよいと結論される。ただし固溶体を構成する原子の局所配置に短範囲規則が存在する点がモンテカルロシミュレーションから示唆されており、平均場としてのギブスエネルギーの描像と、局所的な原子配置の描像に乖離がある点が、HEAの特徴と推察された。これは結晶格子上において、原子種の配置に関する揺らぎがHEA固溶体では非常に大きいことを意味するので、ハイエントロピー効果の一つとも捉えることができると考える。(2)のSluggish-Diffusionについては、通常の多成分系の拡散理論の範疇では、Sluggish-Diffusionをハイエントロピー効果にて理解することは不可能と結論された。ただし近年、不均質系の拡散理論自体が進展しており、Sluggish-Diffusionの論理的な可能性について、もう1歩深める必要があると考えている。この部分については、2020年度の主要課題に位置づける予定である。以上から本研究課題の進捗状況については、おおむね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度終了現在、個々のメンバーが有する各解析手法のHEA適用が進み、当該分野の最先端の研究レベルに比肩する目途がついたと考える。次年度は、解析手法のさらなる高度化を継続するとともに、特に以下の3点に関して、検討を進める予定である。
(1)HEA固溶体のギブスエネルギー的描像(平均場的描像)と、短範囲規則などの原子的描像の、材料科学的理解を明確化する。 (2)不均質系を前提とした原子拡散を論理的に理解・解明する。これにより、Sluggish-Diffusionを超えて、HEAにおける拡散の特徴とは何か、その本質を明確化する。 (3)データ同化および機械学習のHEA分野への展開を順次進める。またこれら三つの主要課題を推進する際、特に2020年度は他班との連携強化に力点を置く。同時に2019年度に開始した状態図計算サービスも継続する。
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Remarks |
代表者である小山は、上記HPにおいて、教科書「材料設計計算工学(計算組織学編)増補新版」に関係する各種の計算理論およびフェーズフィールドシミュレーションのプログラムを公開している。また分担者の阿部は、物質・材料研究機構の「NIMS物質・材料データベース」のHPにおいて、平衡状態図の熱力学データベースを公開している。
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