2020 Fiscal Year Annual Research Report
顕微技術を駆使した計測と制御による細胞構造のしなやかさの高精度解析
Project Area | Elucidation of the strategies of mechanical optimization in plants toward the establishment of the bases for sustainable structure system |
Project/Area Number |
18H05493
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
細川 陽一郎 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (20448088)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
三村 徹郎 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任研究員 (20174120)
安國 良平 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (40620612)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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Keywords | 原子間力顕微 / フェムト秒レーザー / フォースマッピング / 顕微細胞操作 / 液胞制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
原子間力顕微鏡(AFM)を用いて、AFM探針に作用させた力に対する細胞壁のへこみ(フォースカーブ)を、細胞上でマッピングできるシステムを立ち上げ、植物細胞の堅さの評価方法の確立を進めている。これまで植物細胞の解析に、均一なバルク材料を仮定したヘルツの接触理論が慣習的に多くの場合に適用されているが、この解析モデルでは、植物細胞の硬さを正確に表現できないことが示されている。植物細胞はバルク材料ではなく、細胞壁からなる密閉型の箱を膨圧による細胞内圧により支えられる構造であり、植物細胞の外力による作用(外力に対する構造の安定性と不安定性)は、この構造により決定されている。このような構造は、建築学においてシェル構造と呼ばれ、その学理が構築されており、川口班らの知見に基づき、出村班・津川が理論構築をすすめ、有限用法を用いたシミュレーションも駆使し、植物細胞に特化したシェル構造モデルの構築を進めている。植物細胞の外力による作用は、細胞壁の弾性応力(E)と、膨圧による細胞内圧(P)が、細胞の構造と合わさって決定される細胞壁の張力(T)により決定される。これらのパラメーターは、フォースカーブの計測のみでは決定できず、細胞壁の形状(トポグラフィー像)と、レーザーを照射してPを緩和させた後のフォースカーブとトポグラフィー像を合わせて解析することで、評価しようとしている。さらに、シャジクモを用いたマクロとミクロを比較する実験、シャジクモとシロイヌナズナの細胞表面を片持ち梁状に加工してAFM測定することにより、PとTに依存しないEを直接評価する方法を確立し、植物細胞の硬さとしなやかさの本質に迫っていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
AFM 探針を植物細胞表面に押し付けていき、押し付け量と探針の曲がり量の相関曲線(フォースカーブ)を得ることで、植物細胞の弾性と塑性を調べることができる。このとき、探針の位置を細胞表面で移動させていき、フォースカーブを得れば、細胞表面の弾性と塑性の空間分布をマッピング(フォースマッピング)することが可能である。この細胞表面の弾性と塑性には、細胞壁の弾性と塑性、細胞内の膨圧が強い影響を及ぼしていると考えられるが、その実態はほとんど分かっていない。これまでの研究において、AFMによるフォースカーブ測定に加え、プレッシャープローブによる細胞内圧の評価、シャジクモを用いたマクロスケールでの植物細胞の弾性率の評価をおこない、植物細胞に対して、均一な固体材料を解析するヘルツモデルによる弾性率評価が適用できないことが明らかになった。これらの結果を、出村班、川口班と共同して検討し、硬い細胞壁が細胞内圧(膨圧)により支えられる植物細胞特有の構造を、建築学に基づいた理論(シェル理論)による力学モデルにより理解することが妥当であるとの見解に至った。
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Strategy for Future Research Activity |
構築された理論モデルの妥当性を証明するためのAFMとプレッシャープローブを用いた実験を推進している。シャジクモを用いた実験で、マクロスケールで高精度に細胞壁の弾性率や細胞内圧のデータを取得することが可能になっている。今後、シャジクモにフェムト秒レーザーによる加工を適用し、シロイヌナズナなどの通常の植物細胞と同程度となるスケールとみなしてその弾性率を評価できる加工を施し、AFMによるフォースカーブ計測を適用し、マクロスケールとミクロスケールの植物細胞壁の弾性率や張力の計測データを照合する。この結果にもとづき、マクロスケールの評価が不可能であるシロイヌナズナの細胞に対しても、レーザー加工を施し、シャジクモと同等の評価をおこない、比較検討することにより、通常の植物細胞に対して成り立つマクロな観点からの理解につなげ、建築学に基づく理論との整合性についての検証を進める。さらに、シロイヌナズナの根、茎、葉などの部位やその組織内での細胞構造や弾性率の違いについて、AFMを用いたデータ取得を進めていき、植物全体で成立している力学とそれが進化の中で如何に最適化されてきたかについて迫りたいと考えている。
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Research Products
(14 results)