2019 Fiscal Year Annual Research Report
植物体のしなやかさを生み出す非セルロース性細胞壁成分の構造力学的・化学的特性
Project Area | Elucidation of the strategies of mechanical optimization in plants toward the establishment of the bases for sustainable structure system |
Project/Area Number |
18H05495
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
小竹 敬久 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (20334146)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石水 毅 立命館大学, 生命科学部, 教授 (30314355)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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Keywords | 細胞壁 / アラビノガラクタン-プロテイン / ペクチン / 糖鎖 / シロイヌナズナ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、細胞壁の非セルロース性成分の機能に着目して、植物体にしなやかで強い力学特性が付与される仕組みを解明することを目指している。細胞外プロテオグリカンであるアラビノガラクタン-プロテイン(AGP)は、糖鎖の重要性や分子機能が分かっていない。そこで、微生物由来の強力なAG糖鎖分解酵素が発現する植物を作出し、2019年度はこの植物の解析を進め、AG糖鎖を特異的に破壊すると著しい組織形態の異常が起きることを明らかにした(論文投稿中)。今後は、AG糖鎖構造と組織・細胞形態、植物体の物性の関係を整理し、機能に重要な糖鎖構造を同定する。 AG糖鎖の働きに関与する新規因子の発見を目指して、AGPの阻害剤であるヤリブ試薬に高感受性の変異体と耐性の変異体のスクリーニングを実施した。ヤリブ試薬存在下で根の成長が著しく阻害される高感受性変異体が2株、成長の阻害が顕著に抑えられる耐性の変異体が1株得られた。また、ペクチンやセルロースなどのAGP以外の細胞壁成分との機能上の関係を整理する目的で、既存の細胞壁変異体のヤリブ試薬感受性の解析も実施し、これらの中から、2株の高感受性変異体と1株の耐性変異体を見つけた。今後、これら変異体の原因遺伝子や物性、細胞壁の変化、組織形態の変化を解析する。 ペクチンには、HGとRG-I 、RG-IIの3領域が存在するが、これらの分子機能の違いがわかっていない。2019年度は、HGやRG-IIの構造が異常な変異体について、植物体の物性や細胞壁成分の変化を調べた。RG-IIが異常な変異体では、胚軸の伸展性が顕著に低下し、RG-Iの特定の成分が著しく増加していることがわかった。この変化は、RG-IIの異常による力学特性の変化をRG-Iで補償する反応である可能性がある。今後は、遠心過重力環境も利用して、植物体の優れた力学特性に貢献する細胞壁成分や組織構造の同定を進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2019年度は、研究項目「優れた力学特性を生む細胞伸展性・形態形成の自律的制御機構の解明」で、AGPの機能阻害剤であるヤリブ試薬に高感受性の変異体と部分的に耐性の変異体の探索を行い、合計で6株の変異体が得られた。当初とは異なる方法で変異体のスクリーニングを実施したが、目的に沿った結果が得られつつあり、順調に進展していると判断した。研究項目「力学的最適解を生む細胞接着の形成・キャンセル制御機構の解明」では、ペクチンのラムノガラクツロナンII(RG-II)に異常を持つ変異体で、胚軸の物性が顕著に変化していることや、他の成分の増加がみられることがわかった。RG-IIの異常を検知して細胞壁を増強する反応を観察している可能性があり、次年度以降は増加している成分の同定や増加するメカニズムを探る。研究項目「重力に抗する植物の動的な体作りの仕組みの解明」では、様々な細胞壁変異体を遠心過重力環境で育成し、成長の違いを見ることができた。今後は、重力に抗する優れた力学構造に貢献している組織構造や細胞壁成分を同定するために、遠心過重力環境で育成した細胞壁変異体について、細胞・組織構造の変化や細胞壁成分の変化を野生型植物と比較する。
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Strategy for Future Research Activity |
植物細胞壁で屋台骨に相当するのはセルロース微繊維であり、微量成分のAGPや酸性多糖類であるペクチンが植物体の物性に大きく影響する点は大変興味深い。AGPの最大の特徴は複雑で大きな、かつヘテロなAG糖鎖である。2019年度の研究で、このAG糖鎖を特異的かつ劇的に破壊することで細胞形態の制御が異常になることを明らかにできた。しかしながら、微量成分であるAG糖鎖そのものが細胞壁の物性や細胞形態の制御に直接的に影響したとは考えにくい。今後は、AG糖鎖のどのような糖鎖構造が重要であるか、AG糖鎖の構造がセルロース合成や細胞骨格に影響するか、という点を明らかにしていきたい。スクリーニングで得られた変異体やヤリブ試薬感受性が変化した既存変異体には、AGPと協調的に働く因子を欠損したものがあると期待され、これらの変異体の解析も極めて重要である。 ペクチンには、HG、RG-I、RG-IIの3領域があるが、これらの分子機能は異なると予想されている。実際に、HGのメチルエステル化が異常な変異体では、細胞壁と細胞壁が接着せずに組織形状が乱れることや、RG-IIが異常な変異体では、細胞伸長が抑制されることが報告されている。2019年度の研究で、RG-IIが異常な変異体で胚軸の伸展性の低下とRG-Iの増加がみられた。胚軸の進展性の低下は、細胞壁物性の変化、組織構造の変化、またはこれらの両方が関わっている可能性があり、組織構造も詳細に調べる必要がある。 RG-IIが異常な変異体でみられたRG-Iの増加は、元々、1 gの重力に抗するための細胞壁の反応である可能性がある。これを検証するためには、遠心過重力環境で育成した際に、野生型植物も同様の変化を示すのか、RG-IやRG-IIを欠損するとより著しい成長阻害が起きるのか、などの解析を行う必要がある。
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Research Products
(13 results)