2020 Fiscal Year Annual Research Report
古代人ゲノム配列解析にもとづくヤポネシア人進化の解明
Project Area | Deciphering Origin and Establishment of Japonesians mainly based on genome sequence data |
Project/Area Number |
18H05507
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Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
篠田 謙一 独立行政法人国立科学博物館, その他部局等, 名誉研究員 (30131923)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 丈寛 金沢大学, 医学系, 助教 (10558026)
安達 登 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (60282125)
角田 恒雄 山梨大学, 大学院総合研究部, 特任助教 (80446575)
神澤 秀明 独立行政法人国立科学博物館, 人類研究部, 研究員 (80734912)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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Keywords | 古代ゲノム解析 / 縄文人 / 弥生人 / 次世代シークエンサ / 日本人の成立 |
Outline of Annual Research Achievements |
本科研費3年目となる2020年度も,引き続き列島の内外から出土した人骨のゲノム解析を進めた。ただし、新型コロナウィルス感染症の蔓延のために、サンプリングは著しく制限を受けることになり、当初の計画を大きく変更し、一部のサンプリングは翌年に繰り越した。その結果年度内に実際にサンプリングできたのは鳥取県の古墳人骨、南九州の中世人骨、福岡県の弥生人骨と神戸市の古墳人骨のみとなった。 2019年度に琉球列島と九州の縄文人のミトコンドリアDNA系統(M7a)が1万年以上前に分化していることを見いだした。そこで2020年度はこのミトコンドリアDNAのM7a系統がどのような分布をしているか、両者の境界はどこにあるのかを調べる目的で南九州の縄文時代の系統を解析した。その結果、九州島では北九州と南九州の系統に違いはなかったが、鹿児島県の島嶼部の縄文人は琉球列島と同じ系統に属することが判明した。縄文時代には奄美・沖縄には同系統のミトコンドリアDNAが存在したことが判明し、九州島との違いが明らかとなった。 この他に、ミトコンドリアDNAの系統解析を行った個体としては、種子島広田遺跡と愛知県朝日遺跡、大阪府堺市の野々井二本木山古墳人骨、更に朝鮮半島南部三国時代の古墳出土人骨として有名な慶南高霊池山洞44号墳首長墓から出土した人骨があり、それぞれの遺伝的な特徴を明らかにした。またこの他に、中国地方の古墳人骨15体のDNA分析も手がけている。本年度は主にミトコンドリアDNAの分析を行ったが、その過程で核ゲノムが解析可能な個体を選別した。今後は順次核ゲノム解析を行って、それぞれの地域集団の遺伝的な特徴や相互の関係について検討していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウィルス感染症の蔓延で、発掘調査などの活動が著しく制限され、一部については次年度に繰り越すことになったが、感染が終息している時期にサンプリングを行い、おおむね当初予定していた分析を進めることができた。本年は主としてミトコンドリアDNAの全塩基配列データの取得と系統解析を行い、結果が出たものについては順次論文化した。その結果、母系に関しては遺伝的な概略を明らかにすることができたと考えている。サンプリングの予定も含めて、当初考えていたとおりの成果を上げている。特に、全国各地の縄文時代と弥生時代の遺跡から出土した人骨のミトコンドリアDNAの系統解析から、本土日本では、在来集団と渡来集団の混血が時代や地域によって大きく異なっている可能性を見いだしている。在来集団と渡来集団の関係を、従来の形態学的な研究に比べて、はるかに高い精度で明らかにしつつある。また、古墳時代や韓国のサンプルを分析することができており、現代日本人の形成に一番重要な縄文から古墳時代人骨のゲノムデータを取得するメドを付けることができた。すでに分析した個体の中で核ゲノム解析に適したサンプルについても選定ができており、今後は核ゲノム解析によってミトコンドリアDNAで得られた結果を検証していくことになる。このように今後の研究の方向性を定めることができており、計画は順調に進んでいる。強いて挙げればコロナ禍がどこまで拡大するかという問題はあるが、ここまでのプロセスで特に計画遂行の支障となる事案はない。本年度まで進捗状況は概ね順調であり、当初計画した日本人の成立のプロセスを古代ゲノムデータで明らかにするという目的は果たせると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの三年間の研究によって、列島全域から出土した縄文人骨と弥生人骨のゲノム解析を進め、その時代差・地域差についての知見を集積した。ミトコンドリアDNA解析はほぼ終わらせているので、今年度以降は,縄文・弥生人に加えて古墳時代人骨の核ゲノム解析を進める。特に日本の古代国家形成に大きな役割を果たしたと考えられる、岡山県を中心とした中国地方や畿内の古墳から出土した人骨の核ゲノム解析を進める事で、この時代の集団の社会構造などを考察するために必要な基礎的なデータを集積する。併せて縄文時代に関しても墓制の検討が可能な遺跡を選定し、サンプリングを行う。 琉球列島集団の形成過程を明らかにするために、貝塚前期からグスク時代に至る琉球列島出土人骨のゲノム解析を進める。更に南九州から奄美にかけての地域でも同様の解析を行い、琉球列島のゲノムデータと比較する事で,南西諸島集団の形成のプロセスを明らかにする。更にその知見を現代人のゲノムデータや考古学・言語学データと併せることで、集団の形成史を総合的に理解する。北海道集団では、縄文後期の噴火湾沿岸地域のゲノムデータを新たに取得し、これまでに得られているデータと併せて、縄文から続縄文時代における北海道集団の地域差と時代差について考察する。 韓国から出土した新石器時代から三国時代の人骨のゲノム解析を行うことで、渡来系弥生人の実体についても考える。日本列島だけではなく東アジアを中心とした地域でも古代ゲノムデータが揃ってきた。そこで、これらのデータも含めて東南アジアから東アジアにおける集団の形成史を見直し、その中に日本列島の古代ゲノムデータを組み込むことで、アジア集団の成立についても考察を進めることにする。
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Research Products
(20 results)