2019 Fiscal Year Annual Research Report
Ontogeny and phylogeny of the acquisition of time
Project Area | Chronogenesis: how the mind generates time |
Project/Area Number |
18H05524
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
平田 聡 京都大学, 野生動物研究センター, 教授 (80396225)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
上原 泉 お茶の水女子大学, 人間発達教育科学研究所, 准教授 (80373059)
酒井 裕 玉川大学, 脳科学研究所, 教授 (70323376)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2023-03-31
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Keywords | 比較認知科学 / 発達心理学 / 数理脳科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
こころが時間を生み出すのはなぜ、どのような仕組みによるのか、その個体発生(ヒトの生後の発達)、系統発生(生物進化)、究極要因(進化的適応と機能)の3つの視点から迫ることを目的とした。2019年度は、大きく分類して次の3つの研究を実施した。(1)時間に関係したヒトの言語表現に関する発達並びにライフステージの認識:前年までの研究の継続として、ヒトの幼児を対象に、自然な場面で発せられる発話データを収集するとともに、これまでに蓄積した作文データを解析した。発達とともに時間に関する言語表現の幅が広がり、徐々に正しい用法が身についていく過程を見て取ることができた。また、自己の人生の過去や未来に関するイメージについて、性別や年齢による違いを明らかにした。(2)ヒト以外の動物における予期的視線:類人猿を対象にした視線計測の手法により、類人猿が直近の将来の出来事を予想して予期的視線を示すことが確かとなっている。この手法により、他者の視点を考慮に入れてその他者の直近の将来の行動を予想する能力を類人猿が備えていることが明らかになった。(3)時間に関係した心理・認知の数理モデルの検証ならびに行動特性の解明:チンパンジーを対象にして、遅延時間割引に関するタッチパネルを用いた認知課題をおこなった。時間あたりの入手可能食物報酬量が異なる場面において、チンパンジーが報酬取得後の「待ち時間の長さ」も考慮に入れて行動選択をおこなうことが示された。また、ヒトを対象にした時間再生課題において、刺激履歴が再生時間に及ぼす影響を調べ、その効果を説明するモデルについて検証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画調書に記載した研究計画の主要な部分を網羅して研究を継続している。類人猿を対象にした視線計測については研究代表者がこれまで確立した手法を継続発展的におこなっており、社会的知性のドメインと時間との関係について、社会的場面での他者の直近の将来の予想という点から成果を得ることができた。心の理論研究と時間研究との融合と考えることができ、当初構想した通りに順調に進んでいると判断できる。また、チンパンジーを対象にした時間割引に関するタッチパネル課題でも、結果をまとめて分析を一段落することができた。ヒトの言語表現に関する発達研究においても、前年までに続いて縦断的データ収集を継続している。時間に関係した多様な言語表現について、語彙の獲得当初は誤用が多くみられるが、やがて正しい用法が身についてく様相が明らかになりつつある。作文データの解析や、自己のライフステージに関して成人並びに高齢者まで含めたアンケート調査も成果がまとまってきている。時間に関係した認知の数理モデルの検証については、時間長処理における刺激履歴の効果を調べる研究において、同化効果と対比効果を説明するモデルの双方に関する理解を深めることができた。以上により、計画調書に記載した内容に照らして、現在までの進捗状況としてはおおむね順調に進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
ヒト以外の動物を対象にした比較研究に関して、これまでにアイトラッカーを用いた研究パラダイムやタッチパネルを用いた研究パラダイムを確立することができており、今後も粛々と継続することで着実に成果を見込むことができる。アイトラッカーを用いた研究では、社会的場面や物理的場面を題材にした様々な刺激動画を作成し、類人猿が予期的視線を示す条件等を詳しく検討する。ヒトを対象にした研究においても、前年までに着手した発話データや作文データの収集と分析を継続する。発話データについては、継続することで、対象児の成長に伴う変化を持続的に捉えることができると期待できる。作文データについては、これまでに収集していない年齢層を対象にしたデータ収集を新たに開始し、データの幅を広げることを試みる。成人や高齢者を対象にした質問紙調査については、これまで収集したデータのさらなる解析をおこなうとともに、新たな視点からの調査をおこなう。また、時間に関係した心理・認知の数理モデルの検証について、時間割引課題や時間再生課題を用いて更に精度を高めたモデルの構築を試みる。最後に、発話データや作文データを、機械学習による言語データコーパス解析に組み込んで、時間を生み出す情報処理過程を再現する研究に新たに着手したい。ただし、2020年初頭からの新型コロナ感染症拡大の影響でデータ収集が思うようにできない可能性もある。また、諸般の事情で経費使用についても留保されている。したがって当面はこれまで取りためてきたデータの解析と、研究論文等の執筆に注力を主眼とする予定である。
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Research Products
(35 results)