Research Abstract |
多孔質結晶のゼオライトのナノ細孔にアルカリ金属を吸蔵させると,金属クラスターを3次元的に配列させることができる。その結果,バルクのアルカリ金属のs電子系とはかけ離れた新奇な性質が観測される。ゼオライトの一種ソーダライトにクラスターを体心立方構造で配列した系で観測される反強磁性についてKクラスターにおけるμSR測定を行った。その結果,Naクラスターと同様に明確な回転信号が観測され,その振動数が顕著に増大した。このことからミューオンが静止した場所では均一な磁場が発生し,その磁場が顕著に大きくなることがわかった。この増大は磁気モーメントを点双極子で近似する場合には起こらない現象であり,クラスターのs電子の波動関数サイズがイオンサイズの増大とともに大きくなり,ミューオンとの直接相互作用が増大した可能性があることを指摘した。次にFAU構造を有するゼオライトLSXにおいて,Na-K合金クラスターを作成した。この系は顕著なフェリ磁性を示すが,Na含有量に依存してその磁性が顕著に変化することがわかった。これらの性質をスーパーケージの幅の狭いバンドにフェルミエネルギーがあり,Naが多く分布するβケージの局在準位との混成効果によってフェリ磁性を発現し,さらにNa含有量の変化に依存してβケージの局在準位が上下して混成が変化する新たなモデルを提案した。次に,同じゼオライトLSXにおいて純Naクラスターを作成したところ,ケージあたりのNa原子数が約10個以下では絶縁体で非磁性であった。ところが,Na原子を12個吸蔵させると,突然金属状態へと転移した。これは従来にない絶縁体金属転移であり,大量のNa原子を吸蔵しても約10個以下ではなぜ絶縁体であるのか,そして,Na数をわずかに増大させるだけでなぜ突然金属状態に転移するのかという興味ある問題を提起しており,今後,その機構の解明に興味が持たれる。
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