2022 Fiscal Year Annual Research Report
生命金属動態を制御するシャペロン分子ネットワークの解明
Project Area | Integrated Biometal Science: Research to Explore Dynamics of Metals in Cellular System |
Project/Area Number |
19H05765
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
古川 良明 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (40415287)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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Keywords | スーパーオキシドディスムターゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
銅・亜鉛スーパーオキシドディスムターゼ(CuZnSOD)はバクテリアからヒトまで広く保存されたタンパク質で、銅イオンと亜鉛イオンを結合し、スーパーオキシドの不均化を触媒する抗酸化酵素である。また、CuZnSODが酵素活性を発揮するためには、分子内ジスルフィド(S-S)結合の形成が必要であることが知られている。しかし、グラム陽性菌であるPaenibacillus lautusが有するCuZnSOD(PaSOD)にはシステイン残基がなく、酵素活性を発揮できるのか不明であった。また、PaSODは、他の生物種由来のCuZnSODには見られないドメイン構造を有していることが予想され、その機能や意味についても明らかでない。そこでまず、PaSODをリコンビナントタンパク質として調製・精製したところ、CuZnSODとしての酵素活性を有していることを見出した。次に、PaSODがS-S結合の形成なく酵素活性を発揮できる理由を明らかにするために、結晶構造解析を行ったところ、S-S結合の代わりにフェニルアラニンとグリシンの側鎖間での疎水性相互作用が形成しており、CuZnSODのフォールドを維持していることがわかった。実際、疎水性相互作用を破壊するアミノ酸置換を導入すると、PaSODの酵素活性は低下した。さらに、PaSODに特有のドメインは、これまでに報告のないフォールドを有しており、PaSODの二量体化を担っていることがわかった。最後に、PaSODはP. lautusの増殖定常期に発現し始めることが確認されたものの、その生理的役割の理解については今後の課題となった。システイン残基は最も酸化されやすいアミノ酸であることからも、PaenibacillusはCuZnSODを抗酸化酵素として効率よく機能させるために、システイン残基を使わないという戦略をとったのではないかと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題では、銅・亜鉛スーパーオキシドディスムターゼ(CuZnSOD)に着目し、その構造・機能解析を通じて、生体内における銅イオン・亜鉛イオンの動態制御メカニズムを理解するとともに、その破綻が生命現象にもたらす影響を明らかにすることを目的にしている。前年度までに、ネイティブ質量分析を駆使したCuZnSODへの新たな金属結合状態解析手法の開発に成功し、分子内ジスルフィド(S-S)結合によるCuZnSODへの金属結合の制御メカニズムを明らかにした。今年度は実績の概要にも記載したように、新たなタイプのCuZnSODの構造・機能解析を行うことで、グラム陽性菌が酸化的環境に対応するための戦略について考察することができた。よって、概ね順調に本課題を推進することができている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に引き続き、他のバクテリアが有する特徴的なCuZnSODに着目し、その構造・機能解析を進めることで、CuZnSODの生理的な存在意義について明らかにしたい。また、CuZnSODの活性化不全やミスフォールディングを伴う病理に着目したプロジェクトについても進めている。特に、変異型CuZnSODを病因タンパク質とする筋萎縮性側索硬化症(ALS)や変性性脊髄症(DM)について、ミスフォールディング機序の解明に引き続き取り組む計画である。
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