2019 Fiscal Year Annual Research Report
Development of advanced speciation for the matabolism of biometals
Project Area | Integrated Biometal Science: Research to Explore Dynamics of Metals in Cellular System |
Project/Area Number |
19H05772
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
小椋 康光 千葉大学, 大学院薬学研究院, 教授 (40292677)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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Keywords | ICP-MS / セレン / 銅 / レーザーアブレーション / 腸内細菌叢 |
Outline of Annual Research Achievements |
誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)は、一般に元素分析のための質量分析計として、主に半導体や環境分野の分析に利用されている機器であるが、近年、生命科学分野への応用展開研究が模索されている。生命科学分野でICP-MSを活用するには、単なる元素の定量分析計として利用するだけでなく、いくつかの応用分析法を導入することによって、得られる情報が飛躍的に増大する。本研究では、①生体内・細胞内での金属・元素の存在状態を明らかにするスペシエーション(化学形態別分析)、②組織内金属分布のイメージングを可能とするレーザーアブレーション法、③一細胞中の全元素を網羅的に測定するシングルパーティクル法を生命金属に特化し、高度化させて、従来法では得ることの難しかった生命金属情報を得ることを目的としている。さらに、高度化させた測定技術を領域内でも共有することにより、本領域の目指す「生命の金属元素戦略」に貢献することも目指す。 上述の①~③の分析法の高度化の検証と応用展開研究を兼ねて、銅及びセレンの代謝、動態、制御という観点から研究を実施している。これら2元素は特に生体内では抗酸化機能を担う酵素群に要求され、その代謝、動態、制御の破綻は、重要かつ多彩な病態の出現に寄与することが知られている。抗酸化元素の機能を明らかにし、「生命金属科学研究基盤の構築」に寄与することによって、「生命の金属元素戦略」に具体な貢献を果たす。また本研究で高度化を図る分析技術は、銅やセレンに限定したものではなく多くの金属元素に適用可能であるため、領域内で対象としている他の金属元素にも適用を拡大することにより、「研究項目B01:生命金属科学研究の測定解析法の高度化」として新学理構築へ貢献することも含んでいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
セレンは生体必須微量元素であり、その生理的性質は化学形態に依存すると言われている。それにもかかわらず、植物(野菜)や動物(肉・魚)には様々な化学形態のセレン化合物が存在するが、喫食傾向によってセレンの栄養学的価値に差異があるとする報告は少ない。このことは、セレンが消化管を通過する過程で化学形態非依存的な代謝起こるものと想定されるが、その機構は明らかとなっていない。そこで本年度は、腸内細菌叢によるセレン代謝、及び腸肝循環に着目し、それらの機構と生物学的意義を明らかにすることを目的とした。 抗生物質を用いて腸内細菌減弱モデルラットを作製し、腸内細菌叢が宿主のセレン代謝に与える影響を評価した。またラットの糞便から得られた腸内細菌を嫌気性条件下で分離培養を行い、各セレン化合物を曝露後、腸内細菌によるセレン代謝物をHPLCと誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)を接続させたLC-ICP-MSによって評価した。 腸内細菌叢減弱モデルを用いたin vivoの実験では、セレノシアン酸等を経口投与したにもかかわらず、モデル対照ラットに静脈内投与したときの挙動と類似した挙動を示し、モデル対照ラットへ経口投与した際に緩和されていた各化学形態の影響を緩和せずに反映した。分離培養した腸内細菌は、経口投与された様々なセレン化合物をセレノメチオニンという共通の代謝物に変換し、宿主はその代謝物を体内に取り込み、利用していることが考えられた。 これらのことは、様々な食事に由来する多様な化学形態のセレンを摂取しても、腸内細菌叢の機能により、宿主は効率的にセレンを利用できることを示している。すなわち、腸内細菌叢は宿主のセレン代謝において、重要な役割を担っていると結論できた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで実施してきた水系のHPLCを基盤とする検出系であるLC-ICP-MSは、生体内に見いだされると想定される使用性の高いセレン代謝物の測定には向いていない。また一部不溶化して存在していることが想定されるセレン代謝物についても測定することが難しい。そこで、次年度以降は(1)脂溶性の高いセレン代謝物を測定するため、順相(HILIC)のHPLCを分離手段としたLC-ICP-MSを構築する。一般にICP-MSは、HILICで用いられる高濃度の有機溶媒を導入することが難しいため、少ない有機溶媒の導入量で分析を可能にする特殊な装置の構築を行う。そして、未だに明確な分析が行われていない脂質画文中に存在するセレン代謝物の分析を行う。また(2)不溶性のセレン代謝物を分析するため、高時間分解能型ICP-MSを用いたsingle particle ICP-MS (sp-ICP-MS)を構築する。これは現在、一細胞分析用に構築しているICP-MSを不溶性粒子として存在するセレンの分析に活用しようとするものである。特に感度において改良が必要なため、試料導入効率を上げるなどの工夫を行う。以上のように、次年度は主に技術的な改良を基軸とした研究展開を図る。 今後COVID-19の影響により、ロックダウン等の研究を計画通りに遂行できないような対応がとられた場合に備え、可能限り速やかに研究を進行させる。 令和2年度には生体金属に関する3研究会の合同年会を、代表者が主催するため、研究成果の効果的な公表の場として活用する予定である。また令和2年度に、ひらめき☆ときめきサイエンスにも採択されたため、本研究成果のアウトリーチ活動として、学童を対象とした研究成果の社会還元にも努める。
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Research Products
(22 results)