2019 Fiscal Year Annual Research Report
Project Area | New Materials Science on Nanoscale Structures and Functions of Crystal Defect Cores |
Project/Area Number |
19H05786
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
松永 克志 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (20334310)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
吉矢 真人 大阪大学, 工学研究科, 准教授 (00399601)
中村 篤智 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (20419675)
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Project Period (FY) |
2019-06-28 – 2024-03-31
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Keywords | 転位 / 電子伝導 / 熱伝導 |
Outline of Annual Research Achievements |
結晶欠陥の1つである「転位」は、材料の塑性変形を担う結晶欠陥として古くから知られている。一方、最近では、転位コア近傍の特異な原子配列に基づき発現する新奇な材料機能が見出されるようになっている。そこで本計画研究では、転位局所領域の機能発現の源となる量子場を「転位機能コア」と位置づけ、転位の電子・原子構造モデリングならびにそれに伴う転位の熱伝導特性と電子伝導特性に関して実験および理論の両面から検証を行う。 初年度にあたる2019年度においては、まず、シンプルな構造を持つ酸化物結晶を対象に、刃状転位の転位コアにおいて熱力学的に安定な原子配列を系統的に理論計算により調査した。また、双結晶実験によりそれらが実際に形成されるのか調査を開始するとともに、熱伝導特性の実験的評価手法について検討を行った。 より高度な理論計算として、転位が形成する局所的な量子場、すなわち完全結晶から転位により逸脱した原子配列がもたらす量子伝導特性について、第一原理計算法とボルツマン輸送方程式および摂動分子動力学法により、定量解析を開始した。転位が分解を生じている場合には、積層欠陥における原子配置の変化から、伝導電子の波動関数の非局在化が生じ、またキャリア濃度が上昇した方が安定になりえることが明らかとなった。また、熱伝導に関しては、転位が波動の伝播の障害となるという単純な描像ではなく、転位が形成する完全結晶から逸脱した局所原子配列が熱伝導を大きく左右することが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
転位コア安定構造の探索のため、酸化マグネシウムの刃状転位を対象に、転位コアの電子・原子構造の熱力学的安定構造の調査を開始した。また、転位が部分転位に分解する特異な構造を持つチタン酸ストロンチウムの転位に対して、安定的な積層欠陥構造の調査を行った。 理論的に、予測された構造通りに転位が形成されるか否か確認するため、実験的に酸化マグネシウムおよびチタン酸ストロンチウムの双結晶を作製し、転位構造の実験的解析に着手した。そのうちいくつかの転位については、すでに、所定通りに作製できることの確認を完了した。刃状転位については、傾角を大きな小角粒界を作ることでより安定的に所定の転位が作製できることが分かった。 チタン酸ストロンチウム等の酸化物中の安定な積層欠陥構造に対し、電子状態解析ならびにn型を仮定した際の電子伝導に関与する非占有軌道解析を行った。併せてボルツマン輸送方程式による電子伝導解析も行った。積層欠陥では電子が過剰に存在しても安定になりうることが分かった。一方、格子熱伝導については、フォノン状態密度変化に注目し、転位コア構造が形成する量子場の影響の定量評価を行った。これらの従来にない新奇な理論計算も順調に進んでおり、より大規模な系を利用した信頼性のあるデータが現在取得されつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに完了した理論的な解析結果に基づくと、転位コアに局在する量子場の広がりが特性を大きく支配していることが明らかとなりつつある。そこで、広がりを評価するために、配列の異なる転位列を材料中に形成させることを試み、その上でそれらの重なりを評価可能な実験に着手する。また、実験的に転位の熱伝導特性評価を行う手法開発にも着手する。 なお、熱伝導と電子伝導は波の伝播と云う観点にて類似している点が大きいが、実用上は熱電変換のように独立制御を求められることも少なくない。この観点に基づき、電子伝導に寄与するファクターと熱伝導に寄与するファクターを理論解析結果に基づき整理を行う。その上で、電子伝導を上昇させながら熱伝導を抑制するような転位機能コアの実現可能性を検討する。 これらの実験・理論解析の元となる、転位コアの電子・原子構造の解析についても、順次進めていく。セラミックスのような、半導体もしくは絶縁体的な性質を有するイオン結合性材料では、極性面の存在が結果の予測を困難にする。また、転位では計算対象の原子数が増えすぎることもしばしば問題になる。これらの課題を解決し、理論的に正しい転位コアの計算手法を確立することを目指す。
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