Research Abstract |
本研究では,地球規模の海洋底地殻中の移流を「海底下の大河」と呼び,その固相-液相の境界で起きている生物地球化学作用を明らかにすることを目標としている。特に,A05班では,「大河」で起きている現象を室内実験で検証することを目的としており,研究期間の前半では,戦略的にそのプロセスを(1)岩石-熱水反応過程と(2)熱水-微生物相互作用過程の2つの素過程に分け,反応の再現と解析を行っている。2009年度は,前年度に導入した(1)の岩石-海水反応実験で使用する改良型バッチ式実験装置(海洋研究開発機構)を利用して,研究計画で提案している4つの大河のうち,水素の大河の再現を試みた。特に,太古代に海洋底に普遍的に存在したと考えられているコマチアイトの高温高圧実験によって,地球初期の水素の大河を再現した。この成果は国際誌に公表し,主要新聞にも取り上げられた。一方,岩石-海水反応を再現するフロー式実験装置に関しては,予定していた改良が進み,腐食の問題はほぼ克服した。また,(2)の熱水-微生物相互作用実験に関しては,フロー式「熱水循環微生物培養装置」が,稼働し始め,基本的な実験が可能になった。また,鉄の大河再現に向けて,微生物の有無を比較するためのインキュベーション実験も行って,基礎データを取得した。さらに,pHとシリ力量を変化させたアミノ酸の高温高圧での安定性実験,複雑系有機物の安定性の実験などの基礎実験を重ねている。これらの実績を基にして,次年度は様々な条件での熱水実験を推進し,(1)固相-液相間の物質の動き,(2)微生物が利用する熱水中の還元物質をいかに作るか,(3)微生物が固相-液相間の物質移動に果たす役割の3つの課題を,実験によって明らかにしていく。
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