2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project Area | Emergent Chemistry of Nano-scale Molecular System |
Project/Area Number |
20111007
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
藤田 誠 東京大学, 大学院・工学系研究科, 教授 (90209065)
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Keywords | 自己組織化 / 有機金属錯体 / 共有結合 / 創発化学 / 遷移金属 / パラジウム |
Research Abstract |
構成する個々の成分のわずかな違いが、その違いの単純な積算としては類推できないような系全体としての違いに現れる現象が創発現象である。本研究では、このような創発現象を化学の分野で探索し、このような発想のもと、新しい化学分野を構築することをめざしてきている。本年度、平面四配位性のパラジウム(II)イオン(M;metalion)と、折れ曲がった二座配位子(L;ligand)とが錯形成する反応系における創発現象を探求した。全ての配位結合が生成して閉じた球状の錯体が構築されると、MnL2n(n=6,12,24,30,60)組成の錯体が得られると予測され、幾何学的な構造から、折れ曲がり角度が小さいとnの数は小さくなると考えられる。これまでに、折れ曲がり角度が127度の場合にはM12L24組成の錯体が得られ、149度の場合にはM24L48組成の錯体が得られることがわかっているが、何度を境に構造がn=12から24へと切り替わるのか予測する方法はなかった。そこで、これらの配位子を混合して、平均の折れ曲がり角度を調整することで、131~134度程度を境に組成が切り替わると予測した。新たに、135,143,147度の折れ曲がり角度を持つ配位子を合成し、生成物の構造決定を行った。その結果、予測値をわずか1度だけ上回る135度の折れ曲がり角度の配位子を含め、配位子の混合実験で経験的に予測された通りにM24L48錯体が得られることがわかった。出発物質の折れ曲がり角度という、わずかな構造の違いが、数十成分の自己組織化の生成物の骨格構造を劇的に制御する創発化学において、経験予測を実証した始めての例を示すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初、配位子の折れ曲がり角度のわずかな違いを使って、複雑な多成分錯体の自己組織化における生成物を精密制御できるとは誰も予見できなかった。角度が異なる配位子の混合実験という簡単な実験によって、生成物の構造予測ができることを実証できた本研究は、原著論文・国内外の学会での発表を通じて評価を受けている。
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Strategy for Future Research Activity |
誰も検証できなかった、複雑な多成分自己組織化における創発性を、独自に合成法を確立してきた巨大分子を使って明らかにしてきている。今後も、引き続き、化学における創発性を示す例を探求する。また、すでに検討を始めているところであるが、理論化学的なアプローチも含めて、実験と理論とを併用した創発化学の探究を進める。
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Research Products
(7 results)