Research Abstract |
エネルギー・物質の流れを伴う動的非平衡条件下で形成される秩序構造(散逸構造)は, ベナール対流をはじめ巨視的レベルの構造として知られるものの, ナノスケールの散逸構造は概念的にも知られていない. 本研究では, 非線形性とエネルギー・物質の流れが協同的に働いてはじめて出現するナノ構造の創製を目的とする. 本年度は, 水-有機溶媒界面において金錯体会合体のナノ散逸構造が形成されること, またその会合体を光還元すると, 中空構造を有するナノワイヤーなどの特異な金ナノ結晶構造が得られることを見出した. テトラブチルアンモニウム(TBA)PF_6のCHCl_3溶液とAu(OH)^-_4水溶液を静かに接触させて, すぐに超高圧水銀灯の光を30分間照射すると, 金錯体の光還元が進行し水相に赤黒色の析出物が生じた. この析出物のTEM観察から, 平均直径11nm, 長さ数μmに及ぶ金ナノワイヤー構造体が観察された. 一方, TBAPF_6/CHCl_3溶液とAu(OH)^-_4水溶液を接触後, 強く撹拌し2相に分かれたサンプルについて光還元を行ったところ, 水相にはナノ粒子凝集体のみが得られた. このナノワイヤー構造体は, TBAPF_6が存在しない条件では得られず, また, 水相とCHCl_3相の接触時間の増大に伴いナノワイヤーからナノ粒子へと構造が変化した. 以上の知見は, 水-有機溶媒が接触後, 非平衡条件で水中に一時的に形成されるTBA^+とAu(OH)^-_4の会合体がナノワイヤーの形成に関与していることを示唆している. このように, 水-有機溶媒界面を利用することで金錯体のナノ散逸構造が形成され, その構造体を金結晶へと光変換することにより, 既存の合成手法では得られないユニークな一次元金ナノ結晶が得られることがわかった. 本原理を応用すれば, 高分子や金属錯体などの様々な物質群から散逸構造に由来する新しいナノ構造を構築してゆくことが可能になるものと期待される.
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