2011 Fiscal Year Annual Research Report
タンパク質の多様性の鍵となるスプライシング暗号解読
Project Area | Diversity and asymmetry achieved by RNA program |
Project/Area Number |
20112004
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
黒柳 秀人 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 准教授 (30323702)
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Keywords | 遺伝子発現制御 / スプライシング / mRNA / 線虫 / レポーター / 蛍光タンパク質 / RNAseq |
Research Abstract |
本年度は、次のアプローチで研究を進め、神経系特異的スプライシング制御因子UNC-75とその認識配列による神経系特異的選択的スプライシング制御機構を明らかにした。 1.スプライシング制御因子の標的エクソンの網羅的探索:野生型背景の線虫および神経系特異的スプライシング制御因子UNC-75の変異体の同調したL1幼虫から抽出したmRNAについて、大規模シーケンスを行い、約600万から1,000万の配列タグを得た。これらのタグをゲノムおよびエクソン境界にマップし、エクソンの使用頻度やスプライシングパターンが野生型線虫とスプライシング制御因子変異体で差があると予測される遺伝子、エクソンの一覧表を作成した。 2.標的候補遺伝子のスプライシングパターンの実験的検証:上記1により制御因子変異体でスプライシングパターンの変化が予測された標的エクソン候補のうち約50個について、RT-PCR法により選択的スプライシングの有無や変異体におけるバリアント量の差異を検証し、unc-75変異体でスプライシングパターンが変化する24の事象を同定した。 3.標的遺伝子の選択的スプライシングパターンの解析:上記2によりunc-75変異体でスプライシングパターンの異常が確認された標的エクソンのうち4個について、蛍光スプライシングレポーターミニ遺伝子を作製し、トランスジェニックレポーター線虫を作製して、UNC-75の標的エクソンがUNC-75依存的に神経系特異的な制御を受けることを見出した。 4.シスエレメントの同定:上記2により同定されたUNC-75標的エクソンの周辺に(G/U)UGUUGUG配列が高頻度で存在することを生物情報学的解析により見出し、上記3のレポーターミニ遺伝子を用いて、その配列がエクソンとの相対的な位置関係依存的に神経系特異的な選択的スプライシング制御に必須であること見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者らのこれまでの研究で同定した線虫の組織特異的選択的スプライシングの制御因子ASD-1, ASD-2, FOX-1, SUP-12, UNC-75およびLST-3のうち、これまでに、asd-1; fox-1二重変異体、asd-2変異体、unc-75変異体およびlst-3変異体について、同調したL1幼虫からpoly(A)+ RNAを調製し、大規模シーケンスを行い、野生型と比較することで、これらの因子変異体で選択的スプライシングパターンが異常を示す遺伝子を同定する方法を確立できた。そして、RBFOXファミリー制御因子ASD-1とFOX-1の標的事象を38個、神経系特異的制御因子UNC-75の標的事象を24個同定した。さらに、これまでに同定した標的遺伝子の塩基配列を基に選択的スプライシングを制御するシスエレメントの配列を予測し、ASD-1とFOX-1のシスエレメントとしてUGCAUG配列を、UNC-75のシスエレメントとして(G/U)UGUUGUG配列を予測し、蛍光選択的スプライシングレポーターの作製による生体内スプライシングパターンの検証によって、実際にこれらの配列が組織特異的選択的スプライシング制御に必須であることを見出した。 これらの成果は、本研究課題の当初の研究計画に概ね沿って進行しており、所期の成果が達せられていると言える。今後は、未解析の選択的スプライシング制御因子についても同様の解析を進めていくことで、同様に選択的スプライシングの標的遺伝子の同定と生体内選択的スプライシングパターンのプロファイリング、シスエレメントの予測と実験的検証がなされ、スプライシング暗号の解明に近づくことが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で同定した組織特異的選択的スプライシングの制御因子ASD-1/FOX-1, ASD-2, SUP-12およびLST-3について、UNC-75の例と同様に、変異体線虫のトランスクリプトーム解析により生体における標的遺伝子を網羅的に探索・同定する。そして、同定した標的遺伝子の蛍光スプライシングレポーターを作製して選択性プロファイルを明らかにする。また、同定した標的遺伝子群の塩基配列や同属の5種の線虫における配列の保存性を基に選択的スプライシングを制御するシスエレメントの配列を予測し、レポーターミニ遺伝子の改変によりシスエレメントの必要性を生体で実験的に検証する。さらに、制御因子制御因子の組換えタンパク質が同定したシスエレメントに直接結合するかゲルシフト実験等によって確認する。 上述のような各制御因子の標的遺伝子の網羅的探索を通じて、複数の制御因子によって共通に制御される標的遺伝子多数見出されると期待される。そこで、そのような選択的スプライシング事象を蛍光スプライシングレポーターで生体内で可視化し、エクソンとシスエレメントあるいはシスエレメント間の相対的位置関係や距離、制御因子のコピー数などをパラメータとして体系的に改変する実験を行って、複数の制御因子によるスプライシング制御の協調性や拮抗作用などの規則性を明らかにする。これらの知見を積み重ねることで、多細胞生物の個体において多様なタンパク質の発現を可能にするスプライシング暗号の解明に貢献することを目指す。
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