2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project Area | Water plays a key role in ATP hydrolysis and ATP-driven functions of proteins |
Project/Area Number |
20118002
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
松林 伸幸 京都大学, 化学研究所, 准教授 (20281107)
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Keywords | ATP / 自由エネルギー / 加水分解 / 水和 / 溶媒和 / 分子シミュレーション / 溶液理論 / エネルギー表示 |
Research Abstract |
本年度から、エネルギー論の焦点を、混合溶媒効果に移した。溶媒効果を用いた化学過程の制御のためである。代表的な共溶媒として、尿素の効果を検討した。尿素はタンパク質の変性に広く用いられている変性剤である。本年度は、アミノ酸アナログおよびcytochrome cを対象として、溶媒和自由エネルギーの観点から変性のメカニズムの解析を行った。自由エネルギー計算には、全原子分子動力学シミュレーションとエネルギー表示法を用いた。エネルギー表示法は、水中におけるタンパク質の溶媒和自由エネルギーの計算にも成功しており、また、汎関数の性質に基づいて、溶媒和自由エネルギーを尿素と水のそれぞれの寄与に分割することが可能である。溶媒和自由エネルギーの分割の結果、尿素は全てのアミノ酸アナログを安定化させることがわかった。一方で、水は疎水アナログでは尿素と協同的に働くが、親水アナログでは逆に不安定化させた。疎水アナログで見られる水の協同的な振るまいのみがindirect interactionを示す結果であり、全てのアナログでの尿素効果はdirect interactionを示す。さらに、溶質-溶媒間相互作用との相関を調べた。水から尿素―水混合溶媒への溶媒和自由エネルギー変化を、それに伴う溶質-溶媒間相互作用の平均和の変化と相関させた。相関プロットより、溶質-溶媒間のvan der Waals力が溶媒和自由エネルギー変化と強い相関を持つことがわかった。一方、静電力は水の寄与と尿素の寄与が互いに打ち消しあい、溶媒和自由エネルギー変化と無相関になる。このことから、アミノ酸アナログに対する尿素効果は溶質-溶媒間のvan der Waals力によるdirect interactionが支配的なことがわかる。cytochtomr cについても、同様の結果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに、分子動力学シミュレーションを、エネルギー表示溶液理論と組み合わせ、水和自由エネルギーの定量的解析を行ってきた。アミノ酸側鎖のアナログ分子の系統的解析によって、エネルギー表示法のバイオ分子への化学精度での適用可能性を示した。そして、タンパク質の溶媒和自由エネルギーの全原子計算を可能とし、共溶媒効果の解析に進んだ。当初の予定通りの進捗である。ATP加水分解自由エネルギーの制御が、本研究の主目的の一つである。これまでの研究で、溶媒が決定的な役割を果たしていることを明らかにしてきた。溶媒効果が大きいということは、非水溶媒・混合溶媒を用いたATP加水分解自由エネルギーの制御可能性を示唆する。タンパク質のような巨大分子系で、共溶媒存在下での全原子自由エネルギー計算が可能になったので、非水溶媒・混合溶媒の網羅的解析を進めることが射程内であることが分かった。当初予定では、タンパク質に進む前に、ATP系の解析を行う予定であったが、タンパク質系の共溶媒効果の方が、計算が難しいので、これが可能であることを示したことで、かえって、ATP系の解析を、自信を持って進めることができる。選択的な溶媒和構造と溶質-溶媒相互作用エネルギー分布の関連、それらに基づく溶媒和自由エネルギーの分子論を展開し、溶媒効果による「ATPエネルギー」の制御可能性の範囲を探ることを予定している。さらに、ハイパーモバイル水の起源を明らかにするための、理論的枠組みを構成した。実際の計算には、もう少し時間がかかるが、ハイパーモバイル水は、水分子同士のcross correlationが決定的な役割を果たしていることを、既に見ている。当初は、今年度までには、論文発表にいたる予定であったが、計算は順調に進展しており、最終年度には、結果を確実なものにできる。
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Strategy for Future Research Activity |
F1型ATPアーゼのベータサブユニットに対するATPとADPの結合自由エネルギーの解析が、次のステップである。ATP加水分解に関わる3つの構造の水和自由エネルギーを、全原子モデルで計算・解析する。3つの構造として、ATPやADPの結合していない構造、加水分解前のATP結合構造、加水分解後のADP結合構造を調べる。3つの状態のそれぞれについて、水中での代表的ゆらぎ構造をサンプルし、構造ゆらぎの幅を確定する。その後、各構造に対する水和自由エネルギーの計算を、エネルギー表示法によって行う。これによって、F1タンパク質と溶媒水を、全原子レベルで取り扱い、ATP反応・タンパク質構造変化・水和効果の3者の協同性を、自由エネルギー値に基づいて明らかにする。これまでに、シトクロムcを対象として、タンパク質構造エネルギーと水和自由エネルギーのゆらぎ補償効果を見てきた。ベータサブユニットでは、水和効果の定量的取扱いによって、ATP反応と構造変化のカップリングに及ぼす水和の効果を、自由エネルギーのレベルで解析する。様々なエネルギー因子の補償関係を調べ、単独では起こり得ない各因子の変化が、協同的な変化によって可能になることを示す。ATP反応・タンパク質構造変化・水和効果の3つの寄与の要素分解を行うことで、生体分子複合体の分りやすく、かつ、強力な解析法の構成を目指す。また、水和ダイナミクスに及ぼす影響を表す水和殻表式によって、ハイパーモバイル水の起源を明らかにする。これまでに、水分子同士のcross correlationが決定的な役割を果たしていることを見たが、さらに、計算を進め、構造情報との関わりを調べる。この調査のための枠組みは、既に、水和殻表式によって用意されており、ポイントは、空間分割した時間相関関数の数値的収束にある。
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[Journal Article] Hydration structure around CO_2 captured in aqueous amine solutions observed by high energy X-ray scattering2011
Author(s)
H. Deguchi, Y. Kubota, H. Furukawa, Y. Yagi, Y. Imai, M. Tatsumi, N. Yamazaki, N. Watari, T. Hirata, N. Matubayasi, Y. Kameda
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Journal Title
Int. J. Greenhouse Gas Control
Volume: 5
Pages: 1533-1539
DOI
Peer Reviewed
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