2021 Fiscal Year Annual Research Report
細胞内局所パラメトリック翻訳における物理化学的調節機構の解明
Project Area | Parametric biology based on translation rate regulatory mechanism |
Project/Area Number |
20H05785
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
原田 慶恵 大阪大学, 蛋白質研究所, 教授 (10202269)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡部 弘基 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 助教 (20455398)
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Project Period (FY) |
2020-10-02 – 2023-03-31
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Keywords | パラメトリック / 細胞内温度計測 / 細胞内局所加熱 / 翻訳速度 |
Outline of Annual Research Achievements |
遺伝子発現に可変性をもたらす翻訳速度制御の細胞内機構はどのようなものだろうか?これまでに翻訳が障害された際にmRNA上で停滞したリボソームを脱落させる機構が知られているが、昨今の次世代シークエンサーを用いたリボソームプロファイリングの結果から、翻訳異常時だけでなく、定常的にmRNA-リボソーム複合体には種々の状態が存在し、翻訳速度がダイナミックに変動するパラメトリックな翻訳現象が示唆された。このことから、翻訳速度変化は翻訳異常への応答だけでなく、環境適応やストレス応答、神経機能など臨機応変かつ劇的な生命機能を担うと考えられてきた。しかし、細胞内局所において翻訳速度の変動を駆動・制御する機構は分かっていない。この原因は、これまで細胞内で翻訳速度調節を担う物理化学的な要因を解明した研究がほとんどなかったためである。 我々はこれまでに細胞内局所に時空間的な温度変動があることを見出した。翻訳は最大の細胞内エネルギー消費反応であることから、本研究では、翻訳速度に与える物理化学的機構として細胞内温度に着目した。そこで、細胞内局所のパラメトリックな翻訳速度調節の駆動力として細胞内局所での発熱および温度不均一性の関与を検証する。そこで、独自の細胞内局所温度の計測法や局所温度操作法を用いて、翻訳反応の熱収支や翻訳複合体の状態やダイナミクスに与える細胞内温度変動の影響を解析すること、及びその機構の解明を目的とした。 本年度は、これまでに開発した蛍光性ポリマー温度センサーや蛍光ナノダイヤモンドを用いて翻訳が細胞内温度に与える影響を詳細に検討した。この結果と前年度に解明した翻訳阻害が細胞内温度を低下させる結果から、細胞内温度が翻訳と密接に関与することを解明した。今後は細胞内温度操作時の翻訳活性を検討するとともに、その機構と意義の解明を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、まず蛍光性ポリマー温度センサーや蛍光ナノダイヤモンドを用いて翻訳が細胞内温度に与える影響を詳細に検討した。まず、一定温度環境において培養した細胞内の定常的温度とそれぞれの細胞内における翻訳活性に正の相関があることを発見した。さらに、神経分化の進行に伴って細胞内の定常的温度が上昇することを見出した。これらの結果は、前年度に解明した翻訳阻害が定常的細胞内温度の低下や神経分化に起因する温度上昇を抑制する結果と良好に合致し、細胞内温度が翻訳と密接に関与することを示している。 次に、細胞内発熱が翻訳に与える役割を解明するために、細胞内の選択的加熱法の開発に取り組んだ。まず、細胞内局所の加熱法として、金ナノ粒子への可視光レーザー照射を選択し、金ナノ粒子の細胞内への導入法の検討および加熱時の細胞内温度変化の定量的評価を行った。続いて、構築した金ナノ粒子による細胞内加熱法を用いて翻訳の操作を検討した。細胞内のmRNAを可視化した細胞において、金ナノ粒子による局所加熱を行ったところ、mRNAが顆粒状に集合する様子を観察した。免疫染色によりこれらのRNA顆粒は翻訳調節能が知られているストレス顆粒であることを示したことから、細胞内局所加熱により、翻訳が制御可能であることを発見した。 さらに、細胞内発熱が翻訳反応に直接影響を与えるかどうかを検討するために、細胞内の温度勾配を阻害する方法の開発と細胞内の特定mRNAの加熱法の開発にも取り組んだ。まず、生理的温度領域において吸熱的構造変化を示すポリマーを細胞内に導入することで、濃度依存的に細胞内温度分布を撹乱することを発見した。これを用いて細胞内の温度勾配を阻害した細胞内の翻訳活性は通常の細胞と比較して低かった。また、金ナノ粒子を細胞内の特定のmRNAと結合させることを目指して、金ナノ粒子表面の化学修飾とそれを用いた細胞何導入法の検討を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、細胞内温度変化が翻訳速度を制御する機構を詳細に検討する。まず、蛍光ナノダイヤモンドの化学修飾による効率的細胞内導入法を確立し、翻訳変調時の細胞内の局所温度計測や温度操作時のキャリブレーションを行う。次に、温度勾配を阻害した細胞内においてmRNAの翻訳状態を網羅的に解析するため、リボソームプロファイリングを実施する。さらに、前年度に着手した分子やオルガネラ選択的な加熱法の開発を進め、特定mRNAの加熱がその翻訳速度に及ぼす影響を解明する。これらの知見と、これまでに解明した翻訳が細胞内温度に与える影響と合わせて、翻訳における温度シグリングのメカニズムを詳細に考察する。 さらに、温度シグナリングによる翻訳制御の生理的意義を解明するため、種々の神経組織を用いてそれらの機能発現に伴う翻訳活性と細胞内温度の関係を調査する。また、これの神経細胞において、細胞内局所加熱等の温度操作が翻訳や神経機能に与える影響を解明する。
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