2023 Fiscal Year Annual Research Report
Interaction in Dynamic Exciton Studied by Electron Spin Polarization Imaging
Project Area | Dynamic Exciton: Emerging Science and Innovation |
Project/Area Number |
20H05835
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
小堀 康博 神戸大学, 分子フォトサイエンス研究センター, 教授 (00282038)
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Project Period (FY) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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Keywords | 電子スピン共鳴 / 電子スピン分極 / 励起子対 / 光電荷分離状態 / 立体効果 / 振電効果 / 電子的相互作用 / 有機薄膜 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では有機系分子を中心とした次世代の光エネルギー変換材料の創成に向け、分子機構の解明が重要な有機薄膜系や連結系において、動的エキシトンによるスピン系相互作用をオングストローム領域の三次元映像で可視化し、三重項励起子や電荷分離立体構造による動的機構・電子状態を明らかにする。領域内で連携して超高速広帯域分光計測、時間分解マイクロ波伝導度計測により過渡種の運動性を特徴づけ、時間分解電子スピン共鳴(TREPR)で観測される電子スピン分極の三次 元画像から、時々刻々変化する励起子対、光電荷分離状態の立体配置、運動性による磁気的相互作用の変化を映像化すると共に、電子的カップリングを定量する。軌道とスピンとの連動によるスピン変換、再結合性、電荷解離性や束縛性状態の立体配置と運動性を明らかにする。部位特異的分子運動とその周波数がどのようにスピン変換、電荷分離立体配置や電子的カップリングに寄与するかを紐解き、再結合を有効に制御する電子状態など分子論的特性によりデバイス高効率化や生命機能開拓への学理を拓く。励起子分裂で生成する多重励起子の立体構造を可視化する電子スピン分極映像化を利用し、MOF材料に生成した3重項励起子ペアのゆらぎ運動による励起子解離を観測すると同時に、スピン量子コヒーレンス時間が長い五重項量子ビットを室温で捉えることに成功した。この量子性がMOFの調和的集団運動によって発現することを実証した。羽曾部らとの共同研究では、分子振動と連動する分子内励起子ペアの五重項状態生成機構を室温で明らかにした。伊澤との共同研究では、固体材料の三重項電荷再結合で生成した三重項励起子ペアによるフォトンアップコンバージョンが固体内部の励起子回転運動による効率的スピン変換で起こることを実証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
レーザーや、電子スピン共鳴装置の故障が相次いたので計測の進度が下がったが、レーザー装置の新規導入で共同研究が現在順調に進行している。現在は、励起子分裂で生成した三重項ペアが遠隔地に解離したスピン相関によるスピン量子コヒーレンスがパルス電子スピン共鳴法で特徴づけられており、多重量子ビットのスピン相関で生じる量子もつれを用いた量子演算にも展開している。さらに、10%を大きく超える超高効率な光電変換機能を示す有機薄膜太陽電池において、界面光電荷分離状態における電子正孔対の距離分布をパルスEPR法で計測することにも成功しており、機構解明を含めた研究が順調に進展している。熱活性化遅延蛍光(TADF)による電界発光では、1分子中にDA相互作用を組み込むことで、CT性を帯びかつ有効な軌道の重なりをもつ励起状態生成が発光特性に重要な鍵を握る。同時に、三重項から一重項への変換制御のため励起三重項(T1)-励起一重項(S1)エネルギー差とスピン軌道相互作用(SOC)を核の変位により変調させSOCによる逆項間交差(RISC)を増強する設計が必要である。梶、相澤らと連携し、有機薄膜においてこのような複雑な動的挙動をTREPR法で直接的に観測し1)SOCによるゼロ磁場分裂相互作用・励起子立体配置の低周波変調と、2)TADFに至るT1-S1エネルギー交差領域のスピン副準位ダイナミクスを世界で初めて明らかにすることに成功した。これらの研究が順調に進行しており、随時学術誌に上梓する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
パルス電子スピン分光計測と、高速時間分解電子スピン共鳴計測が順調に稼働している現状を踏まえ、有機太陽電池や熱活性化遅延蛍光材料を中心にでデバイス動作に関する動的分子機構の解明を進める。有機太陽電池薄膜においては、高速時間分解電子スピン共鳴による中間体計測と小堀が独自に構築したスピン分極映像化解析、低振動運動によるスピンデコヒーレンス効果を取り入れたスピン量子状態解析を行うことで、特定の振動モードやフォノン効果による運動状態の解析と長距離電荷分離構造の解析を行う。同時にパルス電子スピン共鳴による長距離電荷分離状態に対する量子コヒーレンスの観測から、ESEEM法の適用により、電荷間距離の正確な計測を行う。高速時間分解電子スピン共鳴を用いたデコヒーレンス効果で得られる信号は、熱ゆらぎによる活性化状態を直接観測することができる一方で、パルス法では、熱ゆらぎから緩和したトラップ性の電荷分離構造を観測していることから、どのような活性化と安定化を経て長距離電荷分離が起こったのか、ポテンシャル安定化による電圧ロスがどの程度あるのか、詳細を明らかにすることができる。 熱活性化遅延蛍光材料について、励起三重項状態における特定の分子振動による熱活性化で発光性一重項励起子が生成するが、その詳細は明らかでない。高速時間分解電子スピン共鳴法を用い熱ゆらぎを起こしている三重項励起子の電子スピン分極を観測し、分子の運動によるゼロ磁場分裂テンソルの主軸の変化を考慮に入れた横方向磁化に対する効果を解析することで熱活性化状態の電子構造と分子配向を決定する。このような熱ゆらぎによる影響では三重項スピン副準位に対する量子コヒーレンスが消失することが予想されるが、一方、運動が調和的であれば量子力学的なスピン状態とのカップリングにより量子コヒーレンスが維持されることが考えられる。このような動的量子効果の観測も進める。
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