2021 Fiscal Year Annual Research Report
Project Area | Comprehensive understanding of scattering and fluctuated fields and science of clairvoyance |
Project/Area Number |
20H05889
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
木村 建次郎 神戸大学, 数理・データサイエンスセンター, 教授 (10437246)
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Project Period (FY) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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Keywords | イメージングの数理 / 散乱トモグラフィ / 逆解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまで完成させた誘電分散を考慮した散乱場理論を基にした断層映像化の実証試験に成功した。誘電分散を考慮すべきは、特に生体における水のように、波長に対して十分ミクロなスケールで、媒質の中に均一に取り込まれている場合であり、周波数に応じて波動の伝搬速度が異なり、結果として媒質深部における空間分解能劣化の原因となる。我々は、波動散乱の逆問題を世界で初めて解析的に解くことに成功しているが、この解を用いることにより、従来のレーダ、例えば超音波エコー等、あらゆる方法で観測することが原理的に不可能な、レーダ散乱体の裏側の構造を映像化することが可能となる。本年度は、主成分である脂肪組織の内部に、水が均質に分散された測定対象、乳房において、デバイ理論に基づく誘電分散の式を組み込むことにより、乳房内部の高い誘電率を示す領域が明瞭に映像化することを示した。また、波動の減衰が少ない媒質において重要となる多重散乱の問題に関して、高次の散乱場関数を測定対象を取り囲み観測し得る手前側の、1次前方散乱、1次後方散乱、反対側の1次前方散乱、1後方散乱の合成で表現されることを示した。さらに、波動の減衰が著しい測定対象において、静的な場を用いて、多重経路の問題と同様のアナロジーにて、領域内部を映像化する理論の構築を実施した。静的な場を誘起する発信機と、静的な場によって領域内の物質が変化した際に発生する二次的な静的な場を計測する受信機によって設定される多重経路の場の解析によって、物体内部の構造を映像化することが可能となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
誘電分散を組み込んだ散乱場理論では、媒質における誘電分散に関して適切な値が必要となるが、本年度実施した実証試験においては、脂肪が主成分で、一様に水分が分散された生体試料である乳房を用いて、デバイ理論に基づく誘電分散のモデル式を入力することで、画像における散乱点の集束性から、媒質の平均的な誘電分散を得ることが可能となった。散乱場理論では、平均的な誘電率の領域内部に、無限に存在し得る散乱点、すなわち平均的な誘電率からの逸脱が発生する領域との界面に存在する点によって設定される散乱場関数が満たすべき方程式を解き、解の極限操作によって、映像化のための各点の物理量、映像化関数を求めるが、映像化関数を導く過程において、周波数に応じた誘電率差に由来する光速補正を実施した。水を含有する測定対象は無数に存在するため、本成果の重要性が大いに示されたと考える。さらに、本年度は、多重散乱を伴う逆散乱問題という難問の解決のために発展させた。散乱場の4階の偏微分方程式の解は領域の境界における値により完全に決定するので、この一般解の核関数も求まり、さらに映像化関数は極限操作により求まる。多重反射を無視できない場合には、複数の散乱点を領域内部で設定した2次、3次、4次の散乱の存在を考える。2次以上の多重散乱は、散乱場の偏微分方程式の4種類の基本解E1,E2,E3,E4 を組合わせて表現されることから、逆解析を行うためには領域の境界全体での散乱波の観測結果が必要になることが明らかになる。すなわち、対象を取り囲み、手前側と反対側の2つの後方散乱と前方散乱による計測が必須であることが判る。3次元領域での多重散乱を考慮した逆散乱解析は、散乱場理論を用いて逆散乱問題の解を与える本研究が当該分野で初めての取り組みとなったと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
多重経路散乱場理論では実際にはレンズで電磁波を集光することができない物体の背後においても回り込みの経路の成分によって、計算によって光が集光された状態をつくることが可能となる。これらの一連の研究成果を踏まえ2022年度は、誘電分散特性を組み込むことによる、画像再構成時における集束性を、様々な媒質で確認し、実証結果を蓄積する。また、2021年度により引き続き、減衰の少ない媒質における多重散乱の影響を組み込んだ理論の研究に取り組む。多重散乱の問題は、散乱場の“組み合わせ”よって表現され、例えば、2回の散乱が生じる場合には、2つの散乱場関数の積となる。多重経路散乱場理論における散乱場の方程式の解には、前方散乱、後方散乱と、物向こう岸から定義される、前方散乱と後方散乱の4つ存在するが、多重散乱の散乱場はこれらによって展開される。最終的な境界値問題としては、前方散乱と後方散乱の双方の観測結果が必ず必須となる。計算法としては、最終的に複数回の散乱の結果を理論的に除去することで、散乱体の構造を導くことになる。この多重散乱の問題には、考慮すべき重大な問題がある。媒質による大きな減衰がある場合には、多重に散乱を繰り返すことにより、検出限界を下回ることとなるため、考慮する意義を失ってしまう。この理論が最も活かされる適用分野を事前に決定することが重要である。波動の減衰が非常に大きい媒質においては、極端な問題として静的な場を用いた物体内部の映像化を検討することになり、この場合はダイナミックレンジが重要な支配要因となるが、物体内部の3次元構造を映像化するための多次元のデータの取得方法に関しても詳細な検討を進める計画である。
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Research Products
(22 results)