2022 Fiscal Year Annual Research Report
土相・水相・気相の三相をまたぐ不規則な環境変動に対するレジリエンス機構
Project Area | Multi-layered regulatory system of plant resilience under fluctuating environment |
Project/Area Number |
20H05912
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
芦苅 基行 名古屋大学, 生物機能開発利用研究センター, 教授 (80324383)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
打田 直行 名古屋大学, 遺伝子実験施設, 教授 (40467692)
中園 幹生 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (70282697)
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Project Period (FY) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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Keywords | 冠水耐性 / 節間伸長 / 通気組織 |
Outline of Annual Research Achievements |
東南アジアのような洪水多発地域で作付けされる浮イネは、冠水すると節間(茎)を伸長させ葉を水面上に抽出し、酸素や二酸化炭素を摂取することで、過酷な洪水環境でも生存できる。浮きイネの研究を進める中で、浮きイネ品種C9285の葉鞘が紫色に着色していることを観察していた。この葉鞘への着色は、一般的なイネである日本晴やT65では観察されない。浮イネは葉鞘を紫に着色することで茎を遮光し、避陰反応を引き起こすことで、より節間を伸長させているのではないかという仮説を立て研究を進めた。その結果、(1)浮イネの着色が葉鞘の内側特異的であること。(2)2種類のアントシアニン、シアニジン3-O-グリコシドとシアニジン3-O-ルチノシドが高濃度で蓄積すること。(3)浮イネの葉鞘内アントシアニン蓄積の原因遺伝子がアントシアニン生合成遺伝子のDFRであり、浮イネは活性型のDFRを保持しているが、一般的なイネではDFRが機能欠損していること。(4)浮きイネのアントシアニンの蓄積と節間の伸長には正の相関があること。(5)浮イネの葉からの抽出液(アントシアニン)は赤色光をより吸収すること。(6)浮イネの葉鞘が一般的なイネの葉鞘と比べて赤色光をより吸収するが、遠赤色光の吸収はほとんど差がないこと。(7)太陽光の光透過率を波長ごとに比較した結果、アントシアニンを蓄積した浮イネの葉鞘は赤色光を透過しにくいこと。(8)浮イネを白色光および遠赤色光補光条件下で生育させたところ、遠赤色光補光条件では、白色光のみに比べて草丈が著しく高くなり、節間も伸長しており、浮イネが避陰反応を示すことが判明した。以上の結果から、浮イネは葉鞘にアントシアンを蓄積することで、特にFRの少ない水中でも、より赤色光を吸収することで低R/FRの環境を生み出し、避陰反応をうまく利用して環境適応していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
浮イネは、冠水すると節間を伸長させ、葉を水面上に抽出して、酸素や二酸化炭素を摂取することで過酷な洪水環境でも生存できる。今回、この冠水依存的な節間伸長にアントシアニンが関与していることを明らかにした。具体的には、浮イネは葉鞘の内側に特異的にアントシアニンを蓄積し、葉鞘で覆った節間のRed/Fred比を低下させることで、避難反応を誘導し、より節間が伸長しやすい環境を作り出していることを見いだした。アントシアニンは紫外線吸収作用を持つため、植物はアントシアニンを蓄積することで、紫外線によるDNAのダメージを低減させることが知られていたが、その他の理由はあまり分かっていなかった。今回の研究で、植物がアントシアニンを利用して環境適応性を向上させていることが明らかになった。また、トウモコロシの祖先種であるニカラグアテオシントのROLバリア形成の分子機構を解明するために、トウモロコシ自殖系統Mi29を遺伝背景として、ニカラグアテオシントのROLバリア形成制御遺伝子(RBF1)を含む領域をホモ型で持つ準同質遺伝子系統を用いた根の外層組織特異的なRNA-Seq解析を行い、酸素漏出バリア形成に関与する重要遺伝子を探索した。その結果、ROLバリア形成部位で多くのリグニン生合成関連遺伝子の転写産物量が増加していることが明らかとなった。一方で、スベリン生合成遺伝子に関しては、リグニン生合成遺伝子と比較すると少数ではあったが転写産物量が増加していることが明らかになった。また、前年までにシロイヌナズナを用いた化合物スクリーニングにより、低酸素時に作動する仕組みを介して胚軸伸長を促進すると期待できる低分子化合物を同定していたが、その解析の結果、シロイヌナズナの胚軸がこの化合物の添加時や冠水時に伸長するにはエチレン経路の活性化が必要となることを見出した。以上の様に研究は順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
イネはアジアと西アフリカの2ヶ所で栽培化された穀物である。我々はこれまでアジアの栽培イネ“Oryza sativa”の浮イネを用いて冠水耐性機構の研究を進めてきたが、アフリカの栽培イネ“Oryza glaberrima”の一部にも冠水抵抗性があることが見えてきた。そこでまず国立遺伝学研究所から分譲頂いた147系統のOryza glaberrimaを育成後、冠水処理前後の草丈および節間長を計測したところ、数系統が冠水依存的な節間伸長を示した。中でも1系統は我々がこれまで実験に供試してきたアジアの浮イネ(C9285)に匹敵するほど深水で節間伸長性を示した。そこで、冠水依存的に節間伸長するOryza glaberrima系統と節間伸長しないOryza glaberrima系統を交配しF1を得たのち、世代促進し、F2雑種集団を得た。2023年度はこれらの雑種集団を用いて、冠水依存的な節間伸長のQTL解析を行いアフリカイネの冠水依存的な節間伸長の分子メカニズムの解明を目指し、アジアとアフリカで独立に栽培されたイネの洪水耐性機構の相同性と相違性について研究を進める。 トウモロコシ自殖系統Mi29およびニカラグアテオシントのRBF1遺伝子領域を詳細に調査したところ、Mi29の5’UTR上にMULE型のトランスポゾンが挿入されていることが明らかとなった。今後は、トランスポゾンの挿入起源やトランスポゾンがどのようにRBF1の機能へ影響を及ぼすかについて解析を進める。また、同定した化合物がシロイヌナズナの胚軸を伸長させるにはエチレン応答の活性化が必要となることを見出したが、そもそもシロイヌナズナの胚軸のどの部位にエチレンに対する応答能が存在するのか、化合物添加時や冠水時にそのエチレン応答能がどのように制御されているのかについて解析を進める。
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[Journal Article] Identification of a pluripotency-inducing small compound, PLU, that induces callus formation via Heat Shock Protein 90-mediated activation of auxin signaling.2023
Author(s)
Yuki Nakashima, Yuka Kobayashi, Mizuki Murao, Rika Kato, Hitoshi Endo, Asuka Higo, Rie Iwasaki, Mikiko Kojima, Yumiko Takebayashi, Ayato Sato, Mika Nomoto, Hitoshi Sakakibara, Yasuomi Tada, Kenichiro Itami, Seisuke Kimura, Shinya Hagihara, Keiko U. Torii, Naoyuki Uchida
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Journal Title
Front. Plant Sci.
Volume: 14
Pages: 1099587
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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