2021 Fiscal Year Annual Research Report
臨界期の回路網形成に関する注意下の擬アトラクター理論による基礎理論構築
Project Area | Inducing lifelong plasticity (iPlasticity) by brain rejuvenation: elucidation and manipulation of critical period mechanisms |
Project/Area Number |
20H05921
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Research Institution | Kogakuin University |
Principal Investigator |
金丸 隆志 工学院大学, 先進工学部, 教授 (10334468)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
合原 一幸 東京大学, 特別教授室, 特別教授 (40167218)
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Project Period (FY) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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Keywords | 臨界期 / E-I balance / 神経回路モデル / 擬アトラクタ― / リザバー計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「神経回路網再編成の可能性が高い限られた時期」である「臨界期」の開始・終了・再開のメカニズムを計算論的神経科学の観点から明らかにすることを目指している。初年度である令和2年度には、皮質第2/3層の興奮性細胞集団と第4層の抑制性細胞集団からなる数理モデルを構築した。臨界期の開始に関わっている興奮集団と抑制性集団の活動のバランス(E-I balance)をモデルに組み込むことで、カオス的なダイナミクスが典型的に現れることを示し、E-I balance を機能的E/I比という量で定量化することも行った。2年目である令和3年度では、このE-I balance下のダイナミクスの特徴付けを主に行った。リアプノフスペクトラムによる非線形解析を行った結果、E-I balance下のカオスダイナミクスは広く知られている低次元カオスではなく、正のリアプノフ数が多数存在する高次元なカオスであることが明らかになった。 さらにこのダイナミクスは、多数の細胞集団が高頻度発火するバースト状な発火ではなく、少数の集団が交代的かつtransitiveに発火するスパースな発火であるという特徴があった。このダイナミクスは、我々の過去の研究で示した「擬アトラクタ」に近いものと考えている。 そのようにダイナミクスの特徴づけを行うなかで、さらに、「カオスの縁」と呼ばれる領域に典型的な「高次元カオス-低次元カオス」間の一見ランダムな転移現象も見出された。近年、「カオスの縁」におけるダイナミクスは、リザバー計算というリカレントニューラルネットワークで用いられている機械学習手法において、高い性能を示すということで注目を集めている。我々は学習能力が高いとされる「臨界期」に着目しているのであるから、ネットワークダイナミクスの学習性能や情報処理性能は重要であるため、「リザバー計算」の概念を今後モデルに取り込んでいくことが重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「臨界期」を理解するための基礎となる神経ネットワークモデルの構築が完了し、さらにそのダイナミクスの特徴づけまでが完了しているところが評価の理由である。 興奮性集団と抑制性集団の活動のバランスによりカオスが生じることは、1996年のVreeswijkとSompolinskyらによる先駆的な研究でも指摘されている。我々のモデルは、彼らのモデルとは異なるが、リアプノフスペクトラムにより解析を行ったことにより、その高次元カオスとしての性質を示した点、そして高次元カオスと低次元カオスのランダムな転移現象(カオスの縁)を見出したことに非線形動力学的価値と新規性がある。 これらの結果により、E-I balance下のダイナミクスによるリザバー計算とその能力、という次年度以降の方針を定めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
我々のモデルにおけるE-I balance下のダイナミクスが臨界期で支配的であるならば、高い情報処理能力をもつ可能性がある。そのため、本年度はtransitiveなカオスダイナミクスの情報処理能力を明らかにすることを目指す。 そのための手法としてリカレントニューラルネットワークにおける「リザバー計算」という機械学習手法に着目する。我々の神経回路網モデルをリザバー計算における「リザバー」と見なし、いくつかのタスクによりE-I Balance下のダイナミクスの情報処理的な有用性を示す。 この研究に関して、リザバー計算やカオスダイナミクスについて広い知見を持つ信川博士とスヴィリドヴァ博士にあらたに研究分担者として参加頂き、共同研究を行う。 さらに、我々のE-I balanceは、第1層におけるニコチニックアセチルコリン受容体 (nAChR) をもつ抑制性細胞からの入力によりコントロールされると仮定している。これは、E-I balance が生体の「注意」の状態に影響されると仮定していることを意味する。両博士はこれら「注意」のモデル化に関連して瞳孔径の時系列の非線形解析を行っている。この「注意」関する知見をモデルに取り込むことも視野にいれて研究を継続する。
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