2020 Fiscal Year Annual Research Report
Multiscale Theories of Genome Modality
Project Area | Genome modality: understanding physical properties of the genome |
Project/Area Number |
20H05934
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高田 彰二 京都大学, 理学研究科, 教授 (60304086)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
剣持 貴弘 同志社大学, 生命医科学部, 教授 (10389009)
石本 志高 秋田県立大学, システム科学技術学部, 教授 (30391858)
山本 哲也 北海道大学, 化学反応創成研究拠点, 特任准教授 (40610027)
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Project Period (FY) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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Keywords | クロマチン構造転移ダイナミクス / ゲノムDNAの構造転移ダイナミクス / SMCタンパク質 / 染色体ダイナミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
SMCタンパク質のDNAループ押し出しの分子機構を解明するために、残基粒度を持つ粗視化分子動力学シミュレーションによって、バクテリアSMC蛋白質、およびコヒーシンのDNA結合様式を研究した。バクテリアScpA-SMC蛋白質のATP加水分解依存的な構造ダイナミクスを再現し、ATP型Engaged構造、ADP型O構造、Apo型Disangaged構造それぞれの前兆モデルを得た。それをもとにその各々のDNA結合様式を明らかにした。 ゲノムDNA高次構造転移が示す不連続性(all-or-none)によって誘起される遺伝子発現活性の促進と抑制の二相性について、対イオン凝縮理論に対イオンの並進エントロピー効果を取り入れた理論モデルを構築すると共に、蛍光顕微鏡によるDNA一分子計測、無細胞発現系実験を実施することで、DNA高次構造転移が引き起こす遺伝子発現ON/OFFスイッチング機構メカニズムを明らかにする。 染色体マルチスケール理論の一端を担うメゾスケール高分子モデルの構築を進めた。具体的には、ヌクレオソームを球形粒子、リンカーDNAを非線形バネとした粗視化高分子モデルをベースにブラウン運動を考察し、ヒト細胞核内において多発するヌクレオソーム間衝突に着目して、衝突時の跳ね返りを含むブラウン動力学アルゴリズムを考察、実装した。メゾスケール動力学の構築に重要かつ必須なステップとなった。 コヒーシンのループ押し出し運動と転写因子/RNA合成酵素による遺伝子とエンハンサの転写凝集体への結合・解離ダイナミクスを考慮に入れて 、転写凝集体表面のクロマチンの運動と転写ダイナミクスの解析を行った。遺伝子-エンハンサ間のDNAの長さを長くすると緩和時間が長くなるため、次のループ押し出しが始まるまで遺伝子が凝集体表面付近に留まるので、遺伝子の凝集体内の転写装置へのアクセス率が高くなることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
SMC蛋白質の分子機構解明のための基礎データとなるDNA結合モードをほぼ明らかにできた。また、バクテリアSMCについて、ATP依存的な全体構造モデルを構築できたことは順調な成果である。 正4価生体ポリアミンによる遺伝子発現活性への寄与を調査するために、蛍光顕微鏡を用いたDNA一分子計測および無細胞系におけるルシフェラーゼ・アッセイを適用し、さらに、DNAと生体ポリアミンとの静電相互作用について,遮蔽クーロンポテンシャルを採用した理論計算から、生体ポリアミンに誘起されるDNA高次構造転移が、遺伝子発現活性の促進および抑制に関して、直接的な寄与をしていることを明らかにした。 計画期間全体において、ヒストン間相互作用やリンカーDNAの物性など、ミクロ過程を考慮したメゾスケール数理物理モデルの構築およびシミュレーション法の確立を目指しているが、おおむね計画通り、最初期に必要な動力学アルゴリズムのプロトタイプを構築できたといえる。 コヒーシンのループ押し出し運動を考慮に入れて、転写凝集体表面のクロマチン運動の解析を行い、転写凝集体表面に局在化しているスーパーエンハンサの標的遺伝子の凝集体内の転写装置へのアクセス率を理論的に予言した(Yamamoto et al., NAR, 2021)。
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Strategy for Future Research Activity |
つぎは、SMC蛋白質のATP加水分解依存的な構造変化とDNA結合状態を共役させるシミュレーションを行う。これをもとにDNAループ押し出し機構を解明する。 ゲノムDNA 高次構造転移に関して、対イオンの並進エントロピー変化を取り入れたモンテカルロ・シミュレーションの枠組を構築する。理論計算と並行して、無細胞系発現実験を行い、DNA高次構造転移による遺伝子発現活性への寄与について明らかにする。さらに、細胞内が高分子混雑環境にあることに着眼して、細胞サイズの閉鎖空間内での混雑効果がゲノムDNAにどのような影響を与えているのかについても研究を進める。 今年度整備した衝突付きブラウン動力学法アルゴリズムに関して、マルチスケールの枠組みでより一般的な形を追求し、計算機実験を行う。またリンカーDNA物性、周囲非均一ポテンシャル場の拡張に取り組みつつ、高速大規模シミュレーションへの実装を進める。さらに、非ヌクレオソーム型精子クロマチン凝縮解明を目指し、基礎物性測定等の実験解析補助、凝縮体理論の理論物理学的発展研究を進める。 DNAの絡み合いとコンデンシンのループ押し出しを考慮に入れて、平野グループが最近の研究で発見したスパークラー構造の形成機構を明らかにする。エンハンサと転写因子・メディエータの結合を考慮に入れて、転写凝集体の形成・消滅と転写ダイナミクスの相関を理論的に明らかにする。
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Research Products
(10 results)