2021 Fiscal Year Annual Research Report
Project Area | Material properties determine body shapes and their constructions |
Project/Area Number |
20H05948
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
秋山 正和 富山大学, 学術研究部理学系, 准教授 (10583908)
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Project Period (FY) |
2020-11-19 – 2025-03-31
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Keywords | 形態形成 / 数理モデル / 数値計算 / 反応拡散方程式 |
Outline of Annual Research Achievements |
本領域の究極の目標は,生物の形態形成の原理を明らかにしつつ,そこから抽出された新しい発想に基づく事物を,人間生活や工学応用へと展開することである.この大きなゴールを見据えて,秋山班では,主に数理に重点をおいて研究活動を行なっている.本年度は領域発足時にスタートした研究課題に関して,招待講演を含むいくつかの研究報告を行なった.
計画班の小沼氏とのプロジェクトでは,オタマボヤのハウスの展開機構に関して議論を行なった.ここでは,その概略を記載する.オタマボヤのハウスは,採餌のためにオタマボヤ自身が作る構造物であり,一日で何度もハウスを作り展開する.つまりハウスは,「比較的短い時間で作られ,展開することで利用され,最終的には捨てられる」が,この一連のプロセスは通常の形態形成と比較すれば奇異であり,特にハウスの構築段階は興味深い.なぜなら,そのハウスの構造に縦糸と横糸からなる網の目のような構造が見つかったためである.窓によく使われる網戸は,虫などの侵入を防ぐ目的で,人間が恣意的に製作した構造物であるが,オタマボヤはそれを採餌のフィルターとして利用している.このようなグリッド構造が生物から見つかったことは,数理としても大変興味深い.グリッド構造を人間が作成する際には,意図的に縦糸と横糸を用意して行うが,生物がこのような構造を自発的に作るメカニズムはどのようなものであろうか.小沼氏の撮影した,グリッド表面の細胞の配置パターンや,セルロース等の紐状素材の配向パターンを見ることでこの謎が解ける可能性があり,数理的なメカニズムを研究する契機となっている.なお,本成果は日本動物学会において発表された.
計画班の船山氏とは,カイメンの形態形成に関する共同研究を行なっているが,雑誌「数理科学」の特集号にその取り組みが紹介された.本件は後述する.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
数理としていくつかの共同研究を遂行しているが,ここでは,特に船山氏とのカイメン動物の形態形成に関する進捗状況に関して概略を記載する. カイメンの形態形成では,上皮組織もしくはENCMと呼ばれる膜が骨片によって持ち上げられ,複雑な体構造をつくる.これは例えると,キャンプのテントのような構造である.人間であれば,どのような位置にどのようなテンションがかかるかを逆算して,テントの膜の強度やポールの位置を最適化すればよい.一方,そのような中央集権的なbrainを持っていないカイメンでは,よりローカルな情報だけで,グローバルな体構造を作るための設計指針が存在するはずである.この仮説のもと,カイメンの形態形成を再現する数理モデルを構築した.本モデルは,骨片および,体を表現する膜を2つの変数として表現したものである.モデルの概略は次の通りである.ある時刻で,骨片の配置が決定したと仮定する.膜は現時点の体内空間の体積,表面張力,骨片と膜とのインタラクション等で形を変えるが,これを結晶成長のモデルとして有名なPhase Field 法を用いて表現する.Phase Field 法では,上記を加味したエネルギー汎関数を作成し,その勾配系として膜の形状を計算する.膜の形状が決まった後,今度は骨片の配置を検討する.骨片の配置に関しては,実験からいくつかのエビデンスがあがっていたが,当該年度では,仮配置した骨片の2つの端点が膜から飛び出すかどうかで判定した.この仮定は,グラフで言えば変曲点付近で骨片の配置が達成されやすくなることと同義である.以上のように,骨片の配置と膜の形状が相互作用することで,全体としての形が作られるモデルとなっている.この簡単な枠組みで,ある程度カイメンの体構造を再現することができた.この際,特に興味深いのは,骨片の束化が自発的に見られたことである.なお,本取り組みは,数理生物学会にて報告された.
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Strategy for Future Research Activity |
小沼氏とのプロジェクトでは,ハウス全体の形をより鮮明に撮影する技術開発が喫緊の課題である.このため,数理としての仮説提案は実験事実の確認後に行うことを計画している. 船山氏とのプロジェクトでは,骨片の配置条件に関して,実験的エビデンスが貯まりつつある.現行の数理モデルは2次元であるが,3次元のモデルへも拡張可能である.予備的に作成した3次元モデルでは,ある程度検証は可能であるものの,不十分な点があり,これを本格的に3次元化することを目標とする.この目標のため,船山氏のみならず,計画班の井上氏およびその指導大学院生との共同研究で新しいモデルを提案する計画である.2次元に比べ3次元では,骨片の配置に利用可能な局所的な情報はより豊富となる.例えば2次元では,グラフの形状は1回微分および2回微分といったスカラー的な情報しかない.一方,3次元では,平均曲率やガウス曲率に代表されるように,曲面から得られる形状情報は多様である.実際の骨片がこれらの情報を直接的に利用しているかどうかは定かではないが,数理モデル上でこれらがどのように利用されているかを検証することは一定の価値があると考えている.なお,本報告書作成段階では,論文投稿レベルの3次元モデルを構築することができている. 公募班の稲木氏(阪大),松野氏(阪大)とは,ショウジョウバエの後腸(ある種の腸の器官)の捻じれの左右性の研究を行なっている.本研究は成果が見え始めており,当該年度中に,国際学会での招待講演,および日本数学会応用数学分科会特別講演を含む実績となって現れている.この研究を更に加速する形で,国際的なジャーナルに論文が受理されることも目標としたい.
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Research Products
(7 results)