2012 Fiscal Year Annual Research Report
Interdisciplinary research on the vicissitude of the Andean Civilization and its environment
Project Area | Pan Pacific Environmental Changes and Civilizations |
Project/Area Number |
21101004
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
坂井 正人 山形大学, 人文学部, 教授 (50292397)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
阿子島 功 福島大学, 人間発達文化学類, 特任教授 (00035338)
渡辺 洋一 山形大学, 人文学部, 教授 (10137490)
本多 薫 山形大学, 人文学部, 教授 (90312719)
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Project Period (FY) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 文明 / 古環境 / アンデス / 地上絵 / 水資源 / 年輪 / 食性 / 同位体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ナスカの地上絵をめぐる人間活動を通時的に明らかにするとともに、古環境を復元することによって、アンデス文明の盛衰と環境の関係について考察することである。 「地上絵の分布図の再検討」、「遺物の収集・分析」を実施するとともに、動物の地上絵の形態変化と時期差の関係について検討した。また直線の地上絵の上を歩行する際の心拍数を計測することで、地上絵の機能について検討した。さらに地上絵で土器を破壊するという儀礼行為が、2千年間継続したことを突き止め、これらの土器に付着した有機物を分析することで、儀礼内容を検討した。また地上絵付近に分布する遺跡(ナスカ川流域)の立地と景観について調査したところ、水資源へのアクセスが時代によって変化したことが分かった。 ペルー南高地(プキオ)における古環境(A01班調査)は、山に降った雨水を利用して生活していたナスカ社会における水資源へのアクセスの状況と対応すると考えられる。ただし、どこまで厳密に両者が対応するのかについては検討が必要である。従来、ナスカ地域における古環境の指標として用いられてきた陸生巻貝について、その棲息環境を調査して、指標としての意味を再検討した。また「遺跡から出土した木材」および「最近伐採された樹木」の年輪と同位体分析によって、古環境を復元する手法を検討中である。 ただし古環境を復元しただけでは、環境変化によって人間が受けた影響を明らかにできない。そこで、人間が直接受けた影響を知るために、人骨の同位体分析を行ったところ、環境変化に応じて、当時の人々が摂取していた食物に大きな変化が見られることが判明した。つまり、消費する食料を変更することによって、環境変化に柔軟に対応していたことになる。こうした柔軟な対応によって、ナスカ社会は崩壊することなく存続し、地上絵における儀礼が2千年間に亘って実施されたことになる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載した「研究の目的」では、以下の6つの研究課題を挙げた。(1)「地上絵の分布図の再検討」、(2)「地上絵付近の遺物の収集・分析」、(3)「直線の地上絵に関する情報科学的研究(生体反応の検討)」、(4)「動物の地上絵に関する認知心理学的研究」、(5)「地上絵で行われた儀礼に関する試料分析」、(6)「遺跡の立地と景観に関する学際的な調査」。これらの研究課題の全てを概ね予定通り実施することができた。 その上、地上絵が描かれたナスカ台地付近の調査で採取された木材サンプルから年輪を確認できたことは大きな成果である。樹木に年輪が形成された事例は、ペルー南海岸でこれまで報告されていない。今後、遺跡から出土する木材や現世の樹木を使って、年輪を用いた年代学や古環境の復元などの研究を展開できる。 また、人骨の同位体分析によって、ナスカ地域の人々の食性を復元できたことも大きな成果である。食性の変化に注目することで、環境変化が人間にどのような影響を与えたのかについて直接検討できるので、人間と環境の関係について取り組んでいる本研究において、人骨の同位体分析は大変重要である。
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Strategy for Future Research Activity |
ペルー南海岸のナスカ台地とその周辺地域を対象として、古代アンデス文明における環境と文明の関係について学際的な視点から検討する。今年度は過去4年間に行われた調査成果をまとめるとともに、補足的な調査を実施する。 地上絵をめぐる約2000年間にわたる活動とその変化を明らかにするために、地上絵の分布の再検討と遺物の分析によって、地上絵の編年の確立をめざすとともに、地上絵で行われていた儀礼について考察する。また直線の地上絵の機能を詳細に理解するために情報科学的な分析を行うとともに、動物の地上絵に関する学際的な研究を継続する。さらにナスカ台地の北側にあるインヘニオ川流域において、遺跡の立地と景観に関する調査を実施することで、水資源のアクセスに関する時代変化を明らかにする。 その一方で、ナスカ台地周辺の古環境を復元するために、これまでの調査(A01班)で明らかになった湖沼堆積物の分析にもとづく古環境に関するデータを、ナスカ地域で採取した貝、植物遺存体、花粉などのデータと比較する。また、年輪の同位体分析にもとづいて古環境の復元に努めるとともに、人骨の同位体分析を継続することによって、環境変化に対して人間が直接受けた影響を明らかにする。
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Research Products
(16 results)