2012 Fiscal Year Annual Research Report
Search for the electric dipole moment with laser cooled radioactive atom
Project Area | Extreme quantum world opened up by atoms -towards establishing comprehensive picture of the universe based on particle physics- |
Project/Area Number |
21104005
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
酒見 泰寛 東北大学, サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター, 教授 (90251602)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 正俊 東北大学, サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター, 助教 (30400435)
川村 広和 東北大学, サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター, 助教 (50586047)
青木 貴稔 東京大学, 総合文化研究科, 助教 (30328562)
畠山 温 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70345073)
畑中 吉治 大阪大学, 核物理研究センター, 教授 (50144530)
若狭 智嗣 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (10311771)
井上 壮志 東北大学, サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター, その他 (80637009)
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Project Period (FY) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 電気双極子能率 / 超対称性 / CP非保存 / 冷却原子 / フランシウム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、宇宙における物質・反物質の対称性の破れの機構を解明するために、新しいCP対称性の破れ(物質・反物質非対称性)の現象を探索をめざし、電子の電気双極子能率(EDM)の次世代測定技術の確立を目指している。電子EDMはCP対称性を破る観測量であり、素粒子標準理論では、クォークの種類が変化するプロセスによりCPが破れるため、高次効果としてこのプロセスが現れるが、その値は極めて小さく、標準理論からの寄与は無視できる程度である。そこで、このEDMは、標準理論を超える新しい枠組みに対して、敏感な観測量と考えられる。本研究では、電子EDMの増幅度が大きいフランシウム(Fr)に着目し、これまで原子ビームで行われてきた実験を、冷却・トラップ原子を用いて、相互作用時間を延ばし、かつ、空間中に局所的に捕捉することで、統計誤差・系統誤差を格段に向上させる。この実現には、①原子核反応を用いた大強度Fr生成・引き出し、②高輝度中性原子ビーム生成装置、③レーザー冷却トラップ装置の3つの構成要素が最大限の性能を発揮する必要がある。 本研究では、①に関して、融解型標的を用いた表面電離型イオン源の開発に成功し、1秒間に10の6乗個のFr生成を実現した。これは、酸素ビームと金標的の融合反応を用いてFrを生成しているが、この金標的を融解させておくことで、金中の拡散係数が劇的に変化し、標的中で生成されたFrが表面に輸送されやすくなった結果である。さらに、イオンとして輸送したFrを効率よく中性化することが重要であるが、本研究では、白金でコーティングした高温オーブンでFrイオンをいったん停止させ、再度、イオン化するとともに、オーブンの一角に中性化のためのイットリウム標的を配置し、そこに高電圧を印加することでFrイオンを集束させ、一点からFr原子を放出させることで、高輝度Frビームを得る事に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2011年・3月の大震災により、本計画に必須の本センター保有のサイクロトロン加速器が大きく破損した。その復旧に2年弱要したが、2012年11月から運転を再開し、本研究の測定対象である放射性元素・フランシウム(Fr)の生成を再開した。サイクロトロン停止中は、イオン化ポテンシャル等、Frと化学的性質が類似しているルビジウム(Rb)のイオン源と原子線を供給する装置を開発し、サイクロトロンを運転せずに、オフラインでRbを用いて装置開発を遅延なく、予定通り進めた。 今年度の目標は、①高輝度中性原子ビーム生成装置の性能向上、②EDM測定系の開発、③大強度Frトラップ装置の開発の3点であったが、全ての項目で、予定以上の開発を進めた。 本研究の目的は、放射性元素Frを核反応で生成し、その最外殻電子のEDMを測定する事である。核反応で生成されたFrは、反応領域では極めて高い放射線環境下にあるために、イオンとしてバックグラウンドの低い領域まで輸送し、そこで中性化して原子として冷却・トラップする必要がある。この中性化効率が、EDM測定感度向上の鍵となるが、本研究では、イオンをいったん白金をコーティングしたオーブンの中に停止させ、オーブンを高温に保ち、かつ、オーブンの1カ所に配置した中性化用のイットリウム標的に高圧を印加し、イオンを全てこの標的に輸送して、この一点から中性原子を放出して、スリットでビームのサイズを制御して高輝度原子ビームを得る新しい方式を開発した。実験の結果、シミュレーションでの中性化効率は10%程度で、Rbによる実験の結果、4%程度を実現していることを確認し、さらに、Frを用いて、初めて、この方式で中性Fr原子を得る事を確認した。 EDMの測定系に関しても、磁気シールドを用いて環境磁場の測定を行い、EDM測定に必要な磁場一様性を得るための具体的なシールド構造のデザインが確立しつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、光双極子トラップによるFr原子のラムゼー共鳴観測を中軸に、以下の実験技術を確立していく。 統計誤差を向上させるために、表面イオン化器および中性化装置の安定化、更なる性能向上を目指す。表面イオン化器の集束レンズ系を改造し、ビームのエミッタンスを小さくする事で、中性化装置へ入射するビームのサイズを小さくする。これまでの研究で、中性化装置の効率を悪化させている最大の要因は、オーブンに開放してあるイオン入射用のポートからの中性Fr原子の離脱であることがわかっている。現在、イオンビームサイズが大きいため、このポートの直径を20mmと大きくとっているが、ペンシルビームを実現して、このポートサイズを小さくする事で、さらに中性化効率を向上させることが可能である。 次に、MOTから光双極子トラップを用いた原子輸送とトラップの効率向上である。EDM測定のために2つのMOT(磁気光学トラップ)から構成されるダブルMOTの開発を終え、プッシュビームを用いた原子輸送も成功している。現在、既存のファオバーレーザーを用いて下流のMOTで光双極子トラップの開発を進めているが、ファイバーレーザーのビーム強度が不十分のため、トラップ個数が限られる可能性がある。そこで、ファイバーレーザーを増強し、さらにEDMの最終形態であるEDM測定セルまで、下流MOTから光双極子トラップで輸送することを確立する。 さらに、EDM測定の系統誤差を支配している外場の一様性・安定性を向上させる。EDMは磁場中でのスピン歳差運動の周期を測定するが、その周期は、磁場の空間的な一様性と時間変動の安定度に依存する。そこで高精度測定のために、空間的に非常に狭い領域にトラップすることで、空間的な一様性を実現し、円筒形の4層の磁気シールドを整備することで、遮蔽効果の高いシールドを実現して、時間変動も抑える。
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Remarks |
CYRIC測定器研究部は、研究代表者が主催する研究室の名称であり、主要な研究テーマが本研究の内容となっている。
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Research Products
(14 results)