2012 Fiscal Year Annual Research Report
Generation of meta-rule through dynamical systems with multiple timescales: towards a theory of learning and evolution
Project Area | The study on the neural dynamics for understanding communication in terms of complex hetero systems |
Project/Area Number |
21120004
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
金子 邦彦 東京大学, 総合文化研究科, 教授 (30177513)
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Project Period (FY) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 力学系 / カオス的遍歴 / 可塑性 / 学習 / 進化 |
Outline of Annual Research Achievements |
力学系を拡張することで生命システムの自律的発展の理論を開拓している。主要な結果は以下のとおりである。
1.入出力関係の学習、記憶と自発活動:昨年までに、力学系のフローの変化(分岐)として記憶をとらえる描像を提出した。今年度は、簡単なシナプス変化則で、この入力依存の記憶が形成されることを示し、その条件を明らかにした。その結果、入力に応じて、要請された出力へ分岐する力学系が形成される。ここで過去の記憶になるに従い、入力による想起が完全でなくなり、あるところまでくると想起ができなくなる。その結果、記憶容量が定まることを明らかにした。更に、入力がない時には記憶間を遍歴するカオス的自発神経活動が生じ、これは最近の記憶により近づいていることも示した。 2.多数の速い変数と1つの遅い変数が結合した力学系において、速い変数の集団的カオスによる、確率的状態遷移が生じることを明らかにした。速い変数を平均化して求まる解が多数のブランチを持ち、断熱極限では1つのブランチに落ちるが、有限の速度差ではカオスによりブランチ解を遷移するのである。このように遅い変数によるコントロールと速い変数によるスイッチを両立させた固有のダイナミクスを見出し、その解析法を提案した。 3.このほか、環境が変動する際に、ノイズにより外界への適応性と進化的な安定性が両立させられること、大自由度力学系による外界への適応過程を明らかにするなどを行って生物学的可塑性の数理的基盤を明らかにするべく研究を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
いくつかの点では予想外の展開が有り、計画以上の進展を示したものもあり全体としては順調に進んでいる。
1.入出力関係の学習、記憶と自発活動:簡単なシナプス変化則による記憶形成が予想以上にうまく機能していることがわかり、これは大きなステップになった。いくつかの拡張も行って予想以上の発展を示している。ただし、この成果の出版、広報活動は更なるスピードで進めることが必要である。 2.進化に関する研究は、着実な成果を挙げ、可塑性をゆらぎによってあらわす基盤をあたえ、また環境変動に対してゆらぎで対処する進化過程も見出した。この方向の結果は長文のレビューをEvolutionary Systems Biologyの1章としてまとめ、一定の評価が得られつつある。ただし、この数理的研究を脳科学へ結びつける点はまだ構想段階にとどまっており、やや遅れ気味である。 3.結合力学系と細胞分化、大自由度遺伝子発現系による適応過程については、Science,PLoSCompBiolなどにこれまでの結果をまとめてアピールをすることができた。特に細胞分化の理論への関心は発生生物学者にも広がりつつある。 4.多数の速い変数と1つの遅い変数が結合した力学系については予想外の興味深い結果が得られた。今後、脳科学との関連づけが待たれる。
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Strategy for Future Research Activity |
1.これまでに提案した学習則が繰り返し学習に関して効率的かを調べる。ついで、相関のある出力パタンを多数学習した際にカテゴリー化が形成されるかを明らかにする。その際につくられる自発的神経活動の性質を明らかにする。更には、これらの学習則の一般化を図る。一連の研究をまとめて、memory as bifurcation (ないし力学系flowの性質の変化としての学習、記憶)という描像の確立に務める。そのために、広報、出版活動にも力を入れる。更に実験で検証するための提案を行う。 2.多自由度の速い変数と遅い変数が相互作用する力学系研究を進めて、その両者の干渉により、遅い変数による制御が順にスイッチしていくことを明らかにし、また、その脳科学への意義を議論する。 3.環境の変化に応じて、系が可塑性を回復し、その後安定した機能を持つよう進化する仕組みを、ゆらぎ、応答の両面から定量的に解析する。それにより、各成分の間で、遺伝変異由来とノイズ由来のゆらぎの間に比例関係が成り立つこと、また成分の濃度は環境による変動を打ち消すよう遺伝子進化が生じることを明らかにし、それを熱力学のルシャトリエ原理を参考にしつつ、定式化する。つまり、環境への応答と遺伝子の進化へのルシャトリエ原理の確率とそれによる、可塑性の理論の構築である。 4.上記3の研究れと1の学習の研究を組み合わせて、学習に際してのノイズによる揺らぎと学習可塑性の関係の定式化を目指す。更には、以上のシステムを相互作用させることで可塑性を互いに増強して、互いのシステムのイメージが内部に形成されるかを調べる。 最終年度であるので、生命システムの可塑性と安定性の数理的定式化をまとめ、論文発表を含めて発信を積極的に行う。これにより新規ルールの形成過程、記憶の書き換えの理論を構築してコミュニケーションの数理的基盤を形成する。
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Research Products
(37 results)