2022 Fiscal Year Annual Research Report
低エントロピー反応空間での短寿命複合体制御を起点とする有機分子触媒化学の変革
Project Area | Highly organized catalytic reaction chemistry realized by low entropy reaction space |
Project/Area Number |
21H05081
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
布施 新一郎 名古屋大学, 創薬科学研究科, 教授 (00505844)
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Project Period (FY) |
2021-08-23 – 2024-03-31
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Keywords | 不安定活性種 / 有機分子触媒 / 低エントロピー / ペプチド / 環状ペプチド / マイクロフロー |
Outline of Annual Research Achievements |
触媒反応開発において短寿命の不安定複合体の利用は忌避されたきた。これは、反応の進行に伴って複合体が分解などを起こし、収率低下につながるリスクが高いためであるが、そもそも不安定活性種を用いる触媒反応についての知見は十分に蓄積されているとは言い難い状況である。そこで本研究では、律速段階直前の不安定複合体に焦点を当て、複合体を高秩序かつ均一に生成させて反応を詳細に解析し、学術的な知見蓄積と反応設計原理の探求を進めることを目的とした。具体的には、有機分子触媒を用いるペプチドの環化反応を開発対象として、研究を進めることとした。 R3年度は、環化前駆体の代わりとして、入手容易でなおかつ単純な構造のフェネチルカルボン酸、およびフェネチルアミン、さらには実際のペプチドにより近い構造のアミノ酸誘導体を環化前駆体の代わりのモデル基質として用いて、不安定活性種であるアシルアンモニウム種の有用性を実証すると同時に、カルボン酸の選択的な活性化に必要な基質の構造要件を明らかにした。 R4年度は、実際に環化が困難な残基数が少ないC、N末遊離の鎖状ペプチドを基質として用いた環状ペプチドの合成に挑戦した。その結果、既存の方法と比較して、より温和な条件を用いるにも関わらず、より高い収率でより短時間で目的の環状ペプチドが得られることを明らかにした。しかも期待通り、反応で生じる夾雑物も既存法より少なく、なおかつ分離も容易であることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
前年度までに単純なアミノ酸のモデル基質を用いて開発した手法が、環状ペプチドの合成に有効であることを期待してはいたが、有機合成化学においては単純なモデル基質を用いた場合と異なり、実際の複雑な構造の化合物の合成においては予想外の副反応が起こることは珍しくない。しかしながら検討の結果、実際に得られた結果は、当初の予想以上に良好であり、温和な条件下で、極めて短時間でペプチドを環化することに成功した。既存の手法と比べて生産性、Reaction Mass Efficiency、共に劇的に向上した。しかも合成した環状ペプチドは環化を促すターン誘起アミノ酸残基を含まないため、環化難度が高い基質であったが、収率は100%近くに達した。環状ペプチドの合成においては、競合する副反応のリスクの高さから、収率が5割前後であっても決して悪い結果とはいえないが、これほど高い収率で目的物が得られたことは、開発した手法のもつ高いポテンシャルを如実に示すものである。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗状況の項目で述べた通り、当初の予想以上に良好な結果が得られたため、開発した手法の適用限界を明らかにするため、より環化難度が高い基質を用いた環化反応に挑戦する。具体的には、側鎖に遊離の水酸基を有するアミノ酸(例えばセリン、スレオニン、チロシンなど)を含むペプチド、エピメリ化の危険性が高いペプチド(C末端側にグリシン以外のアミノ酸を有するペプチド)、二量化が進行しやすいペプチドを標的として選定し、ペプチドの環化を検討する。またこの際に過去の報告と、比較することにより、生産性やReaction Mass Efficiencyがどれほど向上したかについて明らかにする。特に二量化が進行しやすいペプチドを用いた検討については、過去の報告を調査して、ペプチド環化において広く利用されている条件を用いた際に二量化体が生成している基質を意図的に選択し、開発した手法を用いた環化反応において二量化体の生成を抑制できるかについて検討する。
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Research Products
(15 results)