2022 Fiscal Year Annual Research Report
ベイズ統計学を組み入れた次世代構造モデリングプラットフォームの構築と応用
Project Area | Autonomous biological systems of megadalton complexity |
Project/Area Number |
21H05157
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
森 貴治 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 専任研究員 (90402445)
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Project Period (FY) |
2021-08-23 – 2024-03-31
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Keywords | 分子動力学 / タンパク質複合体 / ベイズ推定 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞内の生命現象を理解するためには、各現象の過程で形成されるタンパク質複合体の構造・ダイナミクスを調べることが重要であり、クライオ電子顕微鏡や高速原子間力顕微鏡 を用いることで可能になってきた。しかしながら、構造解析実験や生化学実験データには、分子のダイナミクス、構造多型、ノイズ、エラーなどの様々な情報が含まれる。メガダルトン級タンパク質複合体を対象とする場合、実験データから分子機構を解明することは従来よりも困難となり、構造モデリング時にノイズやエラーを自動的に除外するような工夫が必要である。本研究課題では、ベイズ推定を介して実験データを分子動力学 (MD) 計算に取り込むことを目指しており、昨年度において、ベイズ推定に基づくタンパク質立体構造予測法の1つである MELD 法を分子動力学計算プログラム GENESIS に実装した。MELD 法では、複数の束縛条件がある場合、エネルギーに従って束縛条件をソートし、ノイズやエラーに由来するようなエネルギーが高い束縛を除外する。本年度は、カルシウムイオンポンプをテスト系として、エラーを含む疑似的なクロスリンク質量分析実験データとクライオ電子顕微鏡実験データを組み合わせて、通常のMD計算により立体構造を予測し、開発したプログラムおよび方法論の検証をおこなった。その結果、クロスリンク質量分析実験データのエラー率をある程度推定できていれば、電顕像によってタンパク質の立体構造が正しい方向に向かって変形し、正解構造に近づくことが分かった。さらに電顕フィッティング項の力の定数に関する検証を行い、精密なモデリングには適切な力の定数に設定することが重要であることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、開発研究と応用研究の両方に取り組んでいる。開発研究では、ベイズ推定を利用する実験データ駆動型シミュレーション法を開発し、それを実行するための構造モデリングプラットフォームを GENESIS 上に構築することを目的としている。応用研究では、開発した手法およびプログラムを用いて、実際にメガダルトン級タンパク質複合体の動的構造の解析と機能の理解を目指している。本年度は、開発した方法論の実証段階として、疑似的なクロスリンク質量分析データとクライオ電子顕微鏡データを組み合わせ、通常のMD計算に基づくMELD法により、実験データからの構造予測がプログラムレベルで可能であることを実証した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度検証したMELD計算は通常のMD 計算と粗視化モデルを組み合わせて行った。今後は、レプリカ交換MD計算に基づく効率の良い構造探索法や全原子モデルあるいはGBSAなどの陰的溶媒モデルを用いた精密なMELD計算の検証を行い、実際のメガダルトン級タンパク質複合体への応用を行う。さらに、プログラムの開発に関しては、最終的にはGENESISの機能の一部としてソースコードも含めて公開し、分かりやすいチュートリアルを作成することで広く一般に利用できるように整備する。
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Research Products
(2 results)