2022 Fiscal Year Annual Research Report
Quantum cosmology experiments in quantum Hall systems
Project Area | The Natural Laws of Extreme Universe--A New Paradigm for Spacetime and Matter from Quantum Information |
Project/Area Number |
21H05188
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
遊佐 剛 東北大学, 理学研究科, 教授 (40393813)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
柴田 尚和 東北大学, 理学研究科, 教授 (40302385)
堀田 昌寛 東北大学, 理学研究科, 助教 (60261541)
米倉 和也 東北大学, 理学研究科, 准教授 (90769043)
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Project Period (FY) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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Keywords | 量子宇宙 / 半導体ナノ構造 / トポロジー / 量子ホール系 / 量子多体系 / 数値計算 / ブラックホール |
Outline of Annual Research Achievements |
量子ホール状態で生成されるエッジを使って、時間的に膨張する1+1次元系の量子宇宙シミュレータを作る理論提案を行った。このシミュレータを使うことで、膨張宇宙の超プランキアン問題、量子揺らぎの古典化、宇宙の量子もつれ構造の研究ができることを指摘し、また時間変化をする量子ホール系で期待される新しい物性物理の進展を明らかにした。 そのような理論提案を実験的に検証するための基礎的研究も進めた。パルスレーザーとパルス電圧励起を組み合わせ、極低温強磁場環境で動作するストロボ顕微鏡を開発し、分数量子ホール状態での量子ホールエッジやバルクの励起を実空間、実時間で観測することに成功した。この技術は量子ホール系で実現する量子宇宙を観測するうえで重要な探索手法となる。また電気測定によって量子宇宙の検証実験を行うための試料構造の検討や、デバイスの試作等を行い、1.5ケルビンの低温磁場環境下での評価も行った。高周波パルスの減衰を防ぐための試料ホルダーや実装用プリント基板の最適化なども進めた。また、5ミリケルビンを実現するための希釈冷凍機を導入し、初期動作などの立ち上げを行った。 数値計算による理論研究として、試料端のポテンシャル形状や電子間相互作用の効果を正確に取り込む量子多体系のハミルトニアンを用いて、長距離相互作用を含む場合の時間発展の計算を可能にした。試料端に形成されるエッジ状態の解析が、長距離相互作用を含む場合でも可能になり、エッジ状態に形成される電荷励起の解析ができるようになった。 数理物理的側面から、超弦理論における量子異常の研究を行なった。ヘテロティック弦理論での世界面の理論の量子異常から、超弦理論に現れる2次形式場のトポロジーの構造を明らかにし、さらにターゲット空間に量子異常がないことを議論した。別の論文では、ヤンーミルズ理論から宇宙ひもが現れうることを高次対称性から議論した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
量子ホール系エッジ電流の様々な膨張スケジュールに対して決定される、曲がった時空上における量子場の振る舞いを理論的に調べる体系の構築によって、これから進展する実験に対してどのような諸量を測れば良いのかなどの知見が固まり、今後の見通しがついた点は順調といえる。 実験的には希釈冷凍機の導入が計画より遅れたため、電気測定による膨張宇宙を模した1+1次元の膨張制御に関しては遅れがでている。一方、光学測定を用いたパルス測定によってエッジの空間伝搬が可視化可能になった点はおおむね順調である。また、半導体試料構造のデザインやプロセスによるデバイス作成、高周波測定系の立ち上げ等もおおむね順調に進展している。 強磁場中の半導体試料の端に形成されるエッジ状態の動的性質を解析するためには、クーロン相互作用の強い短距離成分とゆっくり減衰する長距離成分の両者を取り込む精密な解析が必要であり、そうした解析が現在までの研究により可能になったため、数値計算による研究はおおむね順調である。 超弦理論の量子異常に関して、摂動論で捉えられる部分については昔からよく知られていたが、非摂動的な部分については断片的な結果しかなかった。今回の研究でヘテロティック弦理論ではかなり体系的な議論ができた。またヤンーミルズ理論からの宇宙ひもは高度な理論的理解を用いて新たな可能性を議論することができた。この点は当初の計画以上に進展している。以上のことから、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
量子宇宙を模した測定系を実現し電気測定によって検証するためには、5ミリケルビンという極低温環境を実現することが不可欠であるため、引き続き希釈冷凍機の立ち上げを進める予定である。さらにゲート電圧印可によってエッジの伝搬位置を空間的に任意に制御し、光学測定による観測を目指す。そのためにはさらなるSN比の向上、パルス形状の精密制御化を行うとともに、引き続き半導体試料構造の最適化、デバイス作成等を行う予定である。 膨張する量子ホール系エッジ系を曲がった時空の場の理論で有効的に記述することで、相対論的な場の理論における量子もつれ構造の探求、特に地平面の存在と量子もつれの関係の理解を深める予定である。 具体的な端領域のポテンシャル形状の変化や電荷励起を作り出す局所ポテンシャルの印可によって、多体の波動関数がどのように変形し修正されるか確認する。特に非圧縮性の量子液体の周囲にどのようにして圧縮性の領域が形成されるのか、局所的なポテンシャルを端領域に加えることで得られる電荷励起を解析する。 今回はヘテロティック弦理論での研究を行なったが、他の弦理論の場合でも体系的な理解を目指して研究していきたい。またヤンーミルズ理論からの宇宙論的な帰結として、宇宙ひもだけでなく暗黒物質など色々ありうるので、さらに追求していきたい。
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