2021 Fiscal Year Annual Research Report
Catalyst design by correlation between tuning parameters of metal complex structure and selectivity
Project Area | Digitalization-driven Transformative Organic Synthesis (Digi-TOS) |
Project/Area Number |
21H05212
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
安田 誠 大阪大学, 大学院工学研究科, 教授 (40273601)
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Project Period (FY) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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Keywords | 選択的反応 / 機械学習 / 触媒 / 錯体 |
Outline of Annual Research Achievements |
有機合成研究はこれまで多くの実験を行い、その中から適した反応条件や置換基を力ずくで探し出す作業が日常的に行われ、膨大な時間とコストを要している。本研究ではこの現状を打破するため、機械学習を用いた迅速かつ的確な触媒設計に基づく新反応開発をめざす。触媒構造情報をパラメータ化し、反応効率・選択性との相関を機械学習のデジタル情報として蓄積し、新しい選択的反応系の開発を行う。機械学習だからこそ見出せる化学選択性制御の基盤構築を行うことを目的とする。 従来の我々の知見により、カゴ型金属錯体を用い、「有機骨格が主導する金属錯体の性状制御」を基軸とした触媒設計を行なってきた。この触媒は従来の触媒の性状制御法に比べて多様なチューニングファクターを有し、分子構造を自在に付すことができる特徴を有する。さらに、その金属錯体の性状が鋭敏に反応の速度・収率・選択性に反映されるモデルを実際に構築することが可能である。芳香族アルデヒドと脂肪族アルデヒドは反応性を見分ける触媒反応に注目し、その触媒の候補を探るため、機械学習を活用し、より高い選択性を示す錯体構造をデザインした。その中で、実際に合成可能と考えられる錯体の合成を検討したところ、3種の新しいカゴ型ホウ素錯体を単離することができた。その中のひとつが、極めて高い芳香族選択性を示すことがわかった。ベンゾフラン骨格が3つ反応場周辺に配置された構造をしており、これまでの化学の常識では想起できないもので、機械学習の特長が発揮された結果と言える。また、ホウ素への外部配位子をさらに検討することで、選択性がさらに調整されることが判明し、これらの検討を併せて行うことで、緻密に芳香族選択性の制御を行うことができた。この結果からのフィードバックにより、この芳香族選択性の本質を解明する考察を今後行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
カゴ型ホウ素錯体の反応場周辺に芳香環を配置した触媒が、芳香族/脂肪族を見分ける選択的触媒となることを見出していた。しかし、そのさらなる選択性向上の指針が全くなく、困難な状況にあった。その中で、これまで得られたランダムな選択性の結果を元に、機械学習により新しい触媒構造の提案を行い、その合成と触媒反応を行ったところ、これまでの結果を上回る選択性を示す触媒に辿り着いた。従来の常識では計画することのない構造であり、本研究の機械学習-drivenの良さがでた系といえる。また、機械学習のみに頼るだけでなく、外部配位子や溶媒の検討を多く行うことで、さらに高い選択性を示す反応系を見出すことができた。この選択的反応は世界で唯一のものであり、合成化学の観点からきわめて重要な発見と位置付けられる。 一方で、今回見出した錯体は、ベンゾフランを基軸としたポケットを配置したものであるが、その構造におけるπ拡張を行ったところ、予想外に選択性が低下することがわかった。これまで、π-πやCH-π相互作用が主として選択性に関わると考えていたことを考慮すると、この現象を説明することができない。すなわち、従来の芳香族の認識とは全く異なるメカニズムで基質認識をしている可能性が高いことが判明した。芳香族とはいえ、電荷移動をトリガーとした親和力の発生が考えられ、その検討をスペクトル的に観測したところ、CT型の分子認識を支持する結果が得られた。残念ながら、複雑な構造のため、明白な相互作用の構造を見出すことはできていないが、今後の検討およびモデル基質の結晶化等により、真の相互作用のメカニズムを明らかにしていくことを計画している。
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Strategy for Future Research Activity |
芳香族/脂肪族を見分ける選択的触媒の開発において、新しいπポケットを有する触媒構造を見出すことができた。また、π拡張の影響において、予想外の結果も同時に得られた。これらから、芳香族選択性を与える真の理由についての考察を深める準備が整っている。今後の方針として、π-πやCH-π相互作用に付随して、CT型の分子認識が原因であるとの仮定をもとに、計算、スペクトルの両面から相互作用の本質を明確にしていく予定である。 一方で、さらに新しいπポケット骨格の設計と合成を計画する。ポケットを構成する置換基を検討していくことはもちろんであるが、中心金属をホウ素からアルミニウムに代えること、ケイ素上のMe基を置換フェニル基に代えることで、さらに微細に反応性をチューニングし、高選択性に向けた検討を行う。さらに、中心金属をガリウムに拡張することも視野に入れる。ガリウムはルイス酸性がかなり低下するため、πポケットの影響が相対的に増す可能性があり、選択性向上が期待できる。一方で収率に問題があると考えられ、反応条件や光照射等の活性化を試みる。 これらの新しい構造をもとに、再び機械学習による検討を行う予定である。チューニングファクターが複雑になるため、インプットデータの扱いが困難であることが予想されるが、機械学習を専門している研究者との共同研究により、データサイエンスとしての広がりも含めた検討を行う予定である。 また、芳香族/脂肪族を見分ける選択的触媒系以外の反応系において、置換基と選択性の相関が得られている反応系の知見が蓄積されており、それらの機械学習による解析を順次行っていく予定である。
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