2022 Fiscal Year Annual Research Report
細胞内分子構造動態を解明するためのクロススケールIn-cell NMR解析
Project Area | New cross-scale biology |
Project/Area Number |
21H05250
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
西田 紀貴 千葉大学, 大学院薬学研究院, 教授 (50456183)
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Project Period (FY) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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Keywords | In-cell NMR / 動的構造平衡 / KRAS / メゾ複雑体 |
Outline of Annual Research Achievements |
①細胞内構造ダイナミクスの解析:Rac1のin-cell NMRスペクトルの化学シフトやシグナルの線幅の線形解析から、細胞内ではGDP結合型における構造平衡の交換速度が低下していることが明らかとなった。また、分子クラウダーを用いた再構成実験においても細胞内と同様に交換速度の低下が観測された。分子混雑環境下における交換速度の低下は細胞内分子混雑環境におけるRac1の構造安定化によるものであり、これによりGTP解離に至るエネルギー障壁が相対的に増加することによりRac1のGTP交換速度が低下していることが明らかとなった。 ②細胞内局所環境の影響を解明する技術:C末端の超可変領域(HVR)を含む全長KRasをHeLa S3細胞に導入し、In-cell NMR観測を行った。まず、血清を含まない培地を潅流した条件ではGTP結合型とGDP結合型に由来するシグナルが観測され、さらにEGFを含む培地に交換するとGTP結合型割合の一過的な増加が観測されたことから、細胞膜上でのシグナル伝達依存的な活性化が観測されたことが示唆された。 ③細胞内メゾ複雑体の構造解析:昨年度までの検討に基づいてαシヌクレイン(αSYN)をHeLa細胞に導入し、In-cell NMR観測を行った。37℃の測定条件では溶媒との速い交換のためアミド基シグナルを十分な感度で観測することが困難であったため、細胞を低温条件下でもゲル状態を維持可能なアルギン酸ゲルに包埋してIn-cell NMR測定を行った。その結果、15℃の低温条件下で長時間にわたってαSYNの細胞内シグナルを観測することが可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は昨年度に引き続きIn-cell NMR観測法の技術開発を行い、①細胞内における動的構造平衡の変調の要因の解明、②細胞膜に局在化したKRASのin-cell NMRシグナルの観測に成功するなど、一定の成果を挙げることができた。加えて細胞内メゾ複雑体を観測対象としたIn-cell NMR観測にも着手し、細胞内におけるαSYNのNMRシグナルを長時間にわたって観測する手法を確立できたことから、研究は概ね順調に進展していると判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
細胞内構造ダイナミクスの解析については、新たにE3ユビキチンリガーゼHDM2の動的構造に分子混雑環境が与える影響をNMRと分子動力学シミュレーションの両面から解析を行う。また、細胞内局所環境の影響を解明する技術開発のため、細胞内のバックグラウンドが存在せず1次元NMRで高感度の観測が期待できる19F標識シグナルをプローブとしたIn-cell NMR観測を試みる。具体的な対象としては、細胞膜に局在化したKRASや、大腸菌ペリプラズム空間内に局在化したメタロβラクタマーゼ(MBL)に19F標識を施してin-cell NMR観測を行う。αSYNについては今年度に確立した低温条件下でのIn-cell NMR法を活用し、モノマー間の相互作用や線維形成に由来するNMRシグナル変化の観測を試みる。さらに領域内の共同研究を進め、NMR法による動的構造情報に基づいてメゾ複雑体の構造・機能解明に貢献する。
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Research Products
(11 results)