2021 Fiscal Year Annual Research Report
タンパク質のスルフォン酸化超硫黄による翻訳後修飾模倣とシグナル伝達
Project Area | Life Science Innovation Driven by Supersulfide Biology |
Project/Area Number |
21H05272
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
三木 裕明 大阪大学, 微生物病研究所, 教授 (80302602)
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Project Period (FY) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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Keywords | シグナル伝達 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではタンパク質のシステイン側鎖に生じる超硫黄酸化物がリン酸化などの翻訳後修飾を模倣して、タンパク質分子のダイナミックな機能調節やシグナル伝達に関わる分子メカニズムを明らかにするための解析を実施する。特に2021年度は、これまで私たちが機能解析してきたレドックス応答分子phosphatase of regenerating liver(PRL)や、それに加えてメジャーな活性酸素種の過酸化水素を分解する酵素としてよく知られるperoxiredoxin(PRX)に関する解析を進めた。まずこれらの分子が超硫黄ドナー分子を用いた超硫黄化に応答してどのような変化が起こるかを調べた。6種のPRXファミリーの中でもっともよく解析されているPRX1を培養細胞に発現させ、超硫黄ドナーとしてNa2S2で細胞を処理したところ、PRX1がオリゴマー化することが分かった。従来、PRX1は強い過酸化水素刺激によってオリゴマー化することが知られていたが、この超硫黄ドナーによる効果は非常に強力であり、かつ、非常に大きなオリゴマーができていることが示唆された。さらにより強力な超硫黄ドナーであるNa2S4で処理すると、50マイクロモーラー程度の低い濃度でも十分なオリゴマー化の効果があることも分かった。また、PRLに関しても同様の解析を進めており、特に精製した組換えタンパク質を用いたin vitroの実験では活性システインが分子内で結合反応していることを示唆する実験結果が得られている。PRLに関してはレドックス応答性の活性システイン残基の一アミノ酸置換マウスの作成も進めている。PRLはMg2+トランスポーターCNNMに結合して機能阻害するが、このシステインをアスパラギン酸に置換した時のみ結合が維持されることがわかっており、CNNM結合・機能阻害に影響を与えずシステインの化学修飾を特異的に阻害することで、その生物学的な意義を明らかにすることができると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は活性システインを持つタンパク質の超硫黄化や過酸化の生物学的意義を明らかにすることが目的である本研究のスタートの年だった。PRLやPRXと超硫黄化の関連について計画していたさまざまな実験を実施した一方で、その中でいくつかの興味深い成果を得ることができた。特に、レドックス応答分子としてよく知られるPRXのオリゴマー化が超硫黄化によって調節されていることを示す結果は、本研究の今後の展開を考える上でも極めて重要な意義を持つものと判断できる。PRXは通常は過酸化水素を分解する抗酸化因子として機能する一方で、オリゴマー化に伴って分子シャペロンとしての機能を示すことも報告されており、そのスイッチングに活性システインの超硫黄化が関わっている興味深い可能性が示唆された。今後の研究の一つの核とも言える重要な研究成果であり、これらの理由で、本研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度の重要な研究成果の一つとして、PRXに関して超硫黄化が強力にオリゴマー化を引き起こせることを見つけることができた。PRXのオリゴマー化は上でも述べたように、その機能スイッチングに重要な意味を持つと考えられており、超硫黄化の新たな生物学的機能として非常に興味深い。このユニークな発見をさらに発展させてゆくことが本研究の重要な課題の一つと位置付けている。特に、このときの活性システインの硫黄原子にどのような化学修飾が起こっているかの実態を明らかにすることや、またこのオリゴマー化によって細胞の機能がどのような影響を受けるのかなどについて具体的に明らかにしてゆくことを考えている。また私たちがこれまで先導的に研究を推進してきたPRLに関しては特に活性システインのアミノ酸置換変異体マウスを作成して、その表現型を観察することで、このシステイン残基のin vivoでの重要性を明確にできる可能性がある。今後はこれらの課題について重点的に取り組んでゆくことを考えている。
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Research Products
(12 results)