2023 Fiscal Year Annual Research Report
タンパク質のスルフォン酸化超硫黄による翻訳後修飾模倣とシグナル伝達
Project Area | Life Science Innovation Driven by Supersulfide Biology |
Project/Area Number |
21H05272
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
三木 裕明 京都大学, 工学研究科, 教授 (80302602)
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Project Period (FY) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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Keywords | シグナル伝達 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、タンパク質のシステインのチオール側鎖に生じる超硫黄体の酸化物が翻訳後修飾を構造的に模倣することで、タンパク質分子の動的な機能調節に関わる分子メカニズムを明らかにするための解析に取り組んでいる。2023年度は、メジャーな活性酸素種として知られる過酸化水素を分解する酵素peroxiredoxin(PRX)の超硫黄化とオリゴマー形成に関する解析や、これまで私たちが長らく機能解析してきたレドックス応答分子phosphatase of regenerating liver(PRL)の活性システイン置換マウスの解析を進めた。超硫黄ドナーのNa2S4刺激応答性に巨大なオリゴマーを形成するPRX-1は抗がん剤耐性に関わることが知られているので、シスプラチンによる細胞死に対するNa2S4の効果を検討した。その結果、Na2S4は強力にシスプラチン誘導性の細胞死を阻害できることを見つけた。また超硫黄ドナー刺激と関係なく恒常的にオリゴマーを形成するPRX-4はシグナルペプチドを持ち、小胞体内腔に局在することが知られる。そこでこのシグナルペプチドを除去した変異型PRX-4を作成して解析したところ、通常状態ではオリゴマーを形成せず、Na2S4処理でオリゴマーを作ることが分かった。小胞体内腔の環境によってオリゴマー形成が起こることを示す興味深い結果と考えられる。PRLの活性システイン置換マウスに関しては、ホモ個体が得られている。出生数はメンデル率よりもやや少なかったが、解析するのに十分な数で出生し、野生型マウスと比較して顕著な見かけ上の以上は認められなかった。主要な臓器のタンパク質抽出物を用いて内在性のPRLタンパク質の解析を行ったところ、多くの臓器でシステイン置換型PRLの発現レベルが低下しており、活性型(非リン酸化型)PRLのレベルが野生型と同レベルになっていた。一方で一部の臓器ではそのような発現量変化は認められなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度は前年度に引き続き、活性システインを持つタンパク質の超硫黄化や過酸化の生物学的意義を明らかにすることを目的として本研究に取り組んだ。PRLやPRXを解析対象として計画していたさまざまな実験を実施することで、いくつかの今後の研究の進展につながる興味深い成果を得ることができた。特に、広く利用されている抗がん剤のシスプラチンによる細胞死がNa2S4を培地に添加することで回避できたことは、超硫黄状態の変化が細胞のストレス応答に重要な役割を果たしていることを示唆しており、その応用的な側面から考えても非常に重要な意味を持つ発見と評価できる。また、PRX-4の恒常的なオリゴマー形成が小胞体の内腔への局在に依存していることは、小胞体内腔の微小環境が特殊な超硫黄状態にある可能性を示唆している。小胞体内腔がレドックス的に酸化的な環境にあることは古くから知られているが、超硫黄状態やその酸化状態との関連について検討してゆく価値が高いと考えられる。これらのことから、今後の研究の進展に寄与する十分な成果が得られており、本研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度の重要な研究成果の一つとして、抗がん剤シスプラチンによって引き起こされる細胞死を超硫黄ドナーのNa2S4によって強力に阻害できることを見つけた。シスプラチンはDNAに結合する抗がん剤として有名であるが、活性酸素の産生やタンパク質の凝集などさまざまな効果を持つことが知られており、細胞死に至るメカニズムも明確には分かっていない。超硫黄ドナーNa2S4がどのようにして細胞死を阻害しているのか、その分子機構を明確にすること、またNa2S4刺激によってオリゴマー化したPRX-1がどのように作用するのかについて追究することが今後の重要な課題の一つと考えられる。PRX-1は過酸化水素の除去だけでなく、シャペロンとして作用することも知られており、Na2S4によるその状態や機能がどのように変化しているのかを追究してゆく。また、PRX-4は膵臓がん細胞の増殖に重要であることが報告されている。私たちの見つけたPRX-4の恒常的なオリゴマー形成ががん細胞の増殖に重要であるのか、各種変異体型のPRX-4を用いて解析を進めてゆくことを考えている。
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