2022 Fiscal Year Annual Research Report
土壌微生物機能発揮の鍵となる群集・メタゲノム構造の特定
Project Area | Digital biosphere: integrated biospheric science for mitigating global environment change |
Project/Area Number |
21H05315
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
近藤 倫生 東北大学, 生命科学研究科, 教授 (30388160)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川津 一隆 東北大学, 生命科学研究科, 助教 (20747547)
永田 裕二 東北大学, 生命科学研究科, 教授 (30237531)
大坪 嘉行 東北大学, 生命科学研究科, 准教授 (40342761)
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Project Period (FY) |
2021-09-10 – 2026-03-31
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Keywords | 土壌微生物 / ネットワーク / 非線形時系列解析 / 培養実験 / メタゲノム |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は課題1と2に関する研究を進めた。 ■ 研究課題1 - 実験培養系の解析【永田G】 土壌細菌集団に添加した炭素源の分解資化能と固定能に関わる菌叢・機能遺伝子組成および全有機体炭素量の経時変化のデータ獲得は、本研究を推進する上での重要な核である。本年度は、褐色森林土から抽出した細菌群集を利用し、分解し易さの異なる炭素源を添加した培養実験によって、添加炭素源分解資化能と固定能に関わる菌叢と機能遺伝子の経時変化の基本的データ獲得に成功した。その結果、炭素源によって菌叢および機能遺伝子の変化パターン、および種間相互作用が大きく異なることが明らかになった。一方、構築予定のモデルから推定される原理等の正当性について培養系やマイコロコズムを用いた実験系で検証するための準備を進めた。 ■ 研究課題2 - 種間・機能遺伝子間相互作用の同定【近藤G】 本年度は群集生態学における種間相互作用係数に対応するヤコビアンと呼ばれる値を時系列データから高精度に推定できる新たな手法、LMDr (Local Manifold Distance regression)を開発した。この手法をすでに取得されている土壌微生物群集時系列データに適用することで、時間的に変動する相互作用ネットワークを構築できることを確認した。また、多次元の時系列データから動態の特徴的構造を抽出する次元削減法である動的モード分解(DMD)について検討した。文献調査によりExact DMDおよびNonlinear Laplacian Spectral Analysis (NLSA)を現時点のデータに合うように実装しシミュレーションデータに適用した。その結果、非線形な時系列データでは NLSA の方がより適していることが分かった。予備的に実施された実験データにNLSAを適用したところ、3つの重要なモードがあることが推定された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本計画研究では、培養実験系と非線形時系列解析、フィールド実験を組み合わせたデータ駆動型アプローチによって、土壌微生物の群集構造が有機物分解や土壌呼吸に影響するメカニズム・原理を明らかにすることを目的としている。 研究課題1については、菌叢および構成遺伝子の変化に関するデータセットを取得することを主な目標としていたが、この目標を達成することができた。特に分解し易さの異なる炭素源を添加した培養実験によって獲得した、添加炭素源分解資化能と固定能に関わる菌叢と機能遺伝子の経時変化データは今後のデータ解析を進める上で特に重要な進捗である。実際、このデータの解析により、炭素源によって菌叢および機能遺伝子の変化パターン、および種間相互作用が大きく異なることが明らかになった。また、研究課題2については、種間相互作用を時系列データから推定する手法開発を目標としていたがこれに成功し、土壌微生物における種間相互作用検出を成功させることができた。動的モード分解(DMD)の手法検討が進み、予備実験のデータから三つの重要なモードが検出できたことも重要な成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
■研究課題1 - 前年度に得た菌叢・機能遺伝子組成の経時変化データの解析を進めると共に、菌叢・機能遺伝子組成に加えて、添加炭素源の変動、全有機体炭素量、および各種代謝活性の経時変化のデータ獲得を目標として更なる実験条件の検討とデータ取得を実施する。また、引き続き、構築予定のモデルから推定される原理等の正当性について培養系やマイコロコズムを用いた実験系で検証するための準備を進めると共に、土壌微生物集団の機能操作の可能性についても検討を行う。 ■研究課題2 - 今年度得られたデータに相互作用推定法を適用し、微生物群集の相互作用ネットワークを解明する。また、NLSA をデータに適用し重要なモードを推定し、実験に使用された炭素源や発現した機能遺伝子群との関係について検討する。さらに、前年度までに得られた土壌微生物群集と群集機能時系列データにLMDrを適用し微生物間相互作用と微生物―群集機能相互作用のネットワークを構築、当初計画の通り時間変動する高次元データの分解手法を用いることで群集機能に重要な微生物間相互作用を探索する。
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