2011 Fiscal Year Annual Research Report
Project Area | Molecule Activation Directed toward Straightforward Synthesis |
Project/Area Number |
22105013
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
林 高史 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20222226)
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Keywords | タンパク質 / 酵素 / ヒドロゲナーゼ / 水素発生 / 金属錯体 |
Research Abstract |
生体内の触媒である酵素は、本来不活性な分子を水中かつ温和な条件下において、選択的かつ迅速に変換しうる非常に優れた能力を示す。その理由は、酵素の基質結合部位で、基質あるいは基質と反応する小分子が幾つかのアミノ酸の協同効果によって効率的に活性化したり、基質分子の反応点の位置かつ立体が制御されながら反応が円滑に進行することに由来する。一方、同様な反応をいわゆる通常のフラスコ内で触媒非存在下において進行させる場合には厳しい条件が必要であることが多く、さらに副反応も危惧される。そこで、タンパク質を理由して、新しい生体触媒を創製し、目的の基質を水中でスムーズに変換することは、興味深い研究課題と言える。 本課題研究では、上記の意義をふまえ、当該年度は主に、ヒドロゲナーゼを意識した水素発生触媒の開発を行った。具体的には、タンパク質としてよく知られている電子移動タンパク質チトクロムcを用い、そのタンパク質内に結合している補欠分子ヘムを除去して得られる空孔を、反応場として利用した。この空孔にヒドロゲナーゼの活性中心を模倣した鉄二核錯体を導入し、ヘムポケット内に存在する2つのシステイン残基末端チオールと鉄二核錯体を結合させ活性を持った新しい錯体を構築した。次に、電子源としてルテニウム錯体を光増感剤として利用し、アスコルビン酸を犠牲試薬として添加することにより、光照射下でこのハイブリッドタンパク質に対して、電子を供給し、水(プロトン)からの水素発生を評価した。その結果、pH 4.7 において、2時間で90回程度のターンノーバー数で水素が発生することを見出した。一方、チトクロムcの1/10程度の短いペプチドと鉄二核錯体を組み合わせた複合体では、殆ど水素発生能力を有することがなく、触媒活性に対してタンパク質の反応場が有効に働いていることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新学術領域「直截的物質変換をめざした分子活性化法の開発」の主テーマの一つである反応場を駆使した新しい物質変換を目標とし、当該年度は水からの水素発生に挑戦した。これまで、生体内で水を水素に変換するヒドロゲナーゼについては、様々な分野から注目され、多くのモデル研究が実施されているが、その多くは有機溶媒中での構造モデルにすぎず、水中で働く機能性モデルは殆ど報告例がなかった。本課題研究ではこの問題点を克服するために、タンパク質の空孔を反応場とする全く新しいタイプのモデル分子(タンパク質と金属錯体のハイブリッド)を設計・構築し、その活性評価まで実施することが出来た。その途中では、合成や得られたタンパク質の精製にかなり戸惑うこともあったが、最終的には目的とするモデル分子を調製し、その同定を行うと共に、水素発生まで達成した。触媒効率は、まだそれほど高くはないが、ヒドロゲナーゼの活性中心のモデルとしては、ほぼ最高のデータを得ることが出来、まずは当初の目的を達成したと言える。本成果については、国内外で評価され、イギリス化学会誌の表紙にも採用されると共に、生物有機金属化学国際会議の基調講演での発表の機会も与えられた。まだ、系としての改良の余地はあるが、研究はおおむね順調に進捗していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
この後の主な課題は、活性を有するタンパク質ー金属錯体ハイブリッドの構造の解析による反応機構の考察、および触媒回転数(ターンノーバー数)の向上である。現時用いているチトクロムcは、構造が柔軟であるため、きちんとした構造解析が難しい。また反応性も2時間を超えると急激に低下してしまう問題点を抱えているため、より高いタンパク質の安定性が求められる。それに対して、現在では、ニトロバインディンとよばれるβバレル構造を有したタンパク質に注目している。これも本来はヘムタンパク質であるが、ヘムを除いたアポ体においても構造がたもたれているため、安定性が期待される。現在、まだ予備実験段階ではあるが、このニトロバインディンにヒドロゲナーゼ活性中心モデル金属錯体を導入したハイブリッド体がきちんと合成でき、安定に水素を発生することを突き止めており、今後さらなる検討を加え、優れた水素発生触媒に展開する予定である。
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Research Products
(11 results)