2011 Fiscal Year Annual Research Report
細胞運動の自発的なゆらぎを利用した柔軟な環境応答の分子メカニズム
Project Area | Cross-talk between moving cells and microenvironment as a basis of emerging order in multicellular systems |
Project/Area Number |
22111002
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
上田 昌宏 大阪大学, 生命機能研究科, 特任教授 (40444517)
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Keywords | 自発性 / シグナル伝達 / 走化性 / 1分子計測(SMD) / 自己組織化 / 細胞性粘菌 / ブラウン運動 / 興奮性 |
Research Abstract |
本研究では、環境場が時々刻々と変化する際に、細胞の自発的な運動のゆらぎが積極的に利用されることにより、細胞が環境変化に柔軟に適応する可能性について追求している。本年度は、細胞性粘菌の自発運動の特性を定量解析し、その特性を再現する数理モデルの構築を行い、数値シミュレーションによる数理モデルの解析をおこなった。その結果、アメーバ運動に見られるような自発的な方向転換を伴う運動様式は、障害物があるような複雑な環境で走性行動を示すときに有利に働くことが明らかとなった[Nishimura et al., Physical Review E.,in press (2012)]。また、走性因子の空間分布が時間的に変動する場合にも、こうした運動様式の細胞が効率よく環境変化に追随できることが合わせて明らかになった。 これまで、粘菌細胞の重心位置の経時変化を計測することにより、自発運動の平均二乗変位、速度分布、速度の自己相関関数、速度と加速度の関係といった細胞運動を特徴づける各種の統計量を得ていた[Takagi et al., PLoS ONE (2008)]。細胞運動の数理モデルを構築する際に、Bray&White(1988)によって提唱されたcortical flowの考え方を細胞運動モデルに導入することで、実験的に得られた運動の統計量を定量的に再現する数理モデルの構築に成功した(上記のNishimura et al., 2012)。このモデル細胞はブラウン運動よりも高い直進性を示し、数分程度の時間スケールをもつ比較的直線的な運動を示すと共に、運動方向がときどき揺らぐような運動を行う。こうしたゆらぎを伴う非ブラウン的運動のため、走性因子が安定した勾配を作っているときには走性効率がある上限を持つことになるが、走性因子の勾配下に何らかの障害物が存在するような自然環境に近い複雑な環境においては、障害物を避けて走性を示すことができるようになる。障害物を避ける場合に特別なメカニズムは必要とせず、自発運動のゆらぎによって自然に避けることができることが数理モデルの解析から明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度に報告したように、当初予定していた細胞運動の数理モデルの構築に成功した。これにより、細胞の自発的な運動のゆらぎが環境変動に対して柔軟に細胞が応答する場合に利用される可能性が数理モデルの上で明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
当初予定していたように、今後は、このモデルの実験的検証を行うとともに、細胞の自発運動をつくる細胞内シグナル伝達反応の時空間ダイナミクスを明らかにする必要がある。細胞内ダイナミクスを計測するために多階層イメージング技術の開発を研究項目の一つとして挙げているが、この計測系の開発もほぼ終了している。
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Research Products
(18 results)