2012 Fiscal Year Annual Research Report
Spontaneous signal generation in motile cells and its physiological significance
Project Area | Cross-talk between moving cells and microenvironment as a basis of emerging order in multicellular systems |
Project/Area Number |
22111002
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
上田 昌宏 大阪大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (40444517)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | シグナル伝達 / 自己組織化 / 細胞運動 / 走化性 / 自発性 / 細胞性粘菌 / PTEN |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、環境場が時々刻々と変化する際に、細胞の自発的な運動のゆらぎが積極的に利用されることにより、細胞が環境変化に柔軟に適応する可能性について追求している。昨年度までの研究により、自発運動のシグナル生成に働く細胞内シグナル伝達系としてイノシトールリン脂質代謝系に注目した。自発運動の生成にはイノシトールリン脂質代謝経路における自己組織化反応が関与することが分かってきた。そこで,細胞内1分子計測法などのイメージング技術を駆使してこの代謝系の時空間ダイナミクスを実験的に捉え,確率的にはたらく分子から細胞の運動機能がゆらぎを内包しつつ自律的に形成されるメカニズムを明らかにすることを目指している。本年度は、この代謝系を構成するシグナル分子としてPTENに注目し、PTEN分子が細胞膜に結合する様子を1分子レベルで観測することに成功した。PTENと細胞膜の結合時間を定量化するとともに、膜上でのPTEN分子の拡散の時系列データーを解析し、拡散係数や解離速度などの反応速度を統計的に明らかにするための解析法を開発した(Matsuoka et al., 2013)。その結果、PTENは複数の細胞膜結合状態を持ち、その状態間を遷移することが明らかとなった。さらに、これら複数の状態に対応した拡散係数や速度定数を定量的に決定することができた。今後は、これまでに開発してきた(1)多階層イメージング解析、(2)細胞運動統計解析法、(3)自己組織化メカニズム解析をPTEN分子に適用して一連の解析手法を確立し、PTEN分子の確率的特性と自己組織化反応の関係、及び、自己組織化反応と自発運動ゆらぎの関係を明らかにする。これにより、ゆらぐ分子から細胞の運動機能がゆらぎを内包しつつ自律的に形成されるメカニズムの解明が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
自発運動に関与するPTEN分子の細胞内1分子イメージング解析を終了し、一連の結果を原著論文として報告することができており、当初の予定通り研究を進めている。この1分子イメージング解析法は、細胞膜に結合して機能するシグナル分子に対して一般的に適用できる汎用性の高い解析法となっており、細胞膜上で起こるシグナル伝達反応のメカニズムの解明に広く使うことができる。本研究においては、この手法を用いて細胞の自発運動に関与するイノシトールリン脂質代謝系の他の構成分子(PI3K、PLC、PHD他)の解析を進めており、今後の進展が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに開発してきた(1)多階層イメージング解析,(2)細胞運動統計解析法,(3)自己組織化メカニズム解析をイノシトールリン脂質代謝系に適用し,これらを統合的に用いることによって,この代謝系の構成分子の確率的特性と自己組織化ダイナミクスの関係,及び,自己組織化ダイナミクスと細胞の自発運動ダイナミクスの関係を定量的に明らかにする.特に構成分子のPTEN に注目して解析を進める.多階層にわたる実験に基づいて自己組織化反応および細胞運動の数理モデルを構築し,モデルの解析から分子の確率的特性,自己組織化ダイナミクスの不安定性,自発運動のゆらぎの間の関係を明らかにする.これにより,ゆらぐ分子から細胞の運動機能がゆらぎを内包しつつ自律的に形成されるメカニズムの解明が期待される.イノシトールリン脂質代謝系を構成する10種類に近い分子種について多階層解析を計画しているが,まずはPTEN 分子の解析に集中し,多階層イメージング解析と数理モデルを組み合わせた手法を確立する. PTEN 分子を例にして一連の解析手法を確立した上で,他の分子種に対して同手法の適用可能性を検討し,自発運動のゆらぎが環境適応に積極的に利用される分子メカニズムのシステム論的解析へと展開する.加えて,細胞の自発運動のゆらぎが環境変動の存在を前提として最適化されている可能性についてさらに追求し,「個々の細胞が環境場においてある程度の自由度を保ちながらゆらぐ運動を行ない,場に対して柔軟に応答する仕組み」の解明を目指す.
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Research Products
(15 results)