2013 Fiscal Year Annual Research Report
Project Area | Integrative Research on Cancer Microenvironment Network |
Project/Area Number |
22112009
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
近藤 科江 東京工業大学, 生命理工学研究科, 教授 (40314182)
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Project Period (FY) |
2010-06-23 – 2015-03-31
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Keywords | 低酸素 / HIF / バイオセンサー / タンパク質製剤 / 骨転移 |
Research Abstract |
本研究では、腫瘍内低酸素環境での厳しい環境へ適応する過程で、細胞に起こる様々な変化を遺伝子発現レベルで制御している転写因子HIFのがん悪性化機構への寄与について、マウスモデルを用いて生体レベルで解析し、新たな微小環境関連の治療標的を探索する事を目的として主に以下の研究を実施した。 (1)腫瘍内微小環境におけるシグナルクロストークの解析:HIF, NF-κBやTGF-β活性の変化を発光で経時的にモニタリングできるマルチレポーターシステムを保持した細胞株を樹立し、皮下腫瘍および転移がんモデルを用いて、腫瘍内におけるこれらの因子のシグナルクロストークを観察する。腫瘍増殖とクロストークの関連を解析することで、微小環境変化と腫瘍増殖・悪性化との関連を明確にし、新たな環境標的薬の開発に繋げるため、より多くのがんモデルにおいて、これらの因子のクロストークを解析する。 (2)骨転移治療標的因子の同定:24年度までに、肺転移優位から骨転移優位の表現型を示すがん細胞を単離した。これらの細胞を用いて、前立腺がんで多発する造骨性骨転移モデルの構築に成功した。これまで、「造骨性の骨転移でも頻繁に溶骨性病変が観察される」ことや「溶骨作用を示すRANKLというタンパク質特異的な抗体を投与することで、前立腺がん患者での骨転移発症が抑制された」という臨床報告があったが、溶骨作用が造骨性転移に及ぼす影響やメカニズムについては不明であったが、25年度の解析で、以下の事が明らかになった。(i)がん細胞が転移する際に溶骨が進んでいるとがんの骨への初期増殖を助ける。(ii)骨髄内の低い酸素濃度により、がん細胞のHIFが活性化し、溶骨作用で増加した増殖因子IGF-1がHIFとポジティブフィードバックを形成し、がん細胞の増殖を促進する。 これらの知見は、前立腺がんなどに多発する造骨性骨転移を予防・治療する上で重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は、本研究の目的に沿って研究計画をたて、以下の様に実施した。 (1)腫瘍内微小環境におけるシグナルクロストークの解析:HIF, NF-κBやTGF-β活性の変化を発光で経時的にモニタリングできるマルチレポーターシステムを構築し、その細胞株を移植して皮下腫瘍および転移がんモデルを用いて、生体内での腫瘍内におけるこれらの因子のシグナルクロストークを観察する。具体的には、24年度までに樹立したHIF, NF-κBやTGF-β活性の変化を発光で経時的にモニタリングできるマルチレポーターシステムを導入したがん細胞株を用い、TNF-αやTGF-βを投与する事でNF-κBやTGF-βのシグナルを活性化したり、シグナル阻害剤を投与したりして、人工的に腫瘍内環境を変化させた時に起こるクロストークの観察を行う計画を立て、予定通り実施した。その結果、腫瘍の増殖に伴いHIFと NF-κBおよびTGF-β活性の間に明らかなクロストークが存在する事が分かった。 (2)骨転移治療標的因子の同定:肺転移優位から骨転移優位の表現型を示すがん細胞を単離し、骨転移に関与する遺伝子を同定するために、これらの転移株における遺伝子発現をマイクロアレイを用いて網羅的解析・比較することで、骨転移において重要な役割をすると思われる候補遺伝子を絞り込み、候補遺伝子の機能検証を開始した。6個の候補遺伝子を選び、クローニングした後、過剰発現株とノックダウン株を作成し、骨転移に及ぼす影響を調べている。また、構築した造骨性骨転移モデルを用いて、HIFの骨転移への寄与について解析した。マウスの骨転移初期においてHIFとIGF-1の間でのクロストークが、がん細胞の骨への定着に重要であることや骨転移成立に重要な役割を果しているメカニズムを解明する事ができ、当初の予定どおりの成果が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度までの成果を受けて、本年度は(1)腫瘍内微小環境におけるシグナルクロストークの解析を引き続き行い腫瘍内微小環境の解析を続けるとともに、(2)骨転移治療標的因子の同定においては、動物モデルによる、骨転移関連候補遺伝子の機能検証と腫瘍内微小環境における転移関連因子の機能解析などを行い、治療標的となる因子の同定、それに対する抗がん剤のデザインなど、計画通りに進める予定である。 (1)腫瘍内微小環境におけるシグナルクロストークの解析:乳がん同所移植モデルや骨転移モデルなどを用いて、HIF, NF-κBやTGF-β活性の変化をモニタリングして、腫瘍増殖と悪性化に関与するクロストークの解析を行いたい。これらの解析によって、より効率の良いがんの治療や診断への情報につなげたい。 (2)骨転移治療標的因子の同定:特に標的候補として選択してきた遺伝子の過剰発現細胞株やノックダウン株を樹立し、候補因子の骨転移における機能解析を、モデル動物や樹立したがん細胞を用いて行う事で、新規標的因子の同定、それらに対する抗がん剤の開発への道筋ができると期待される。少なくとも1遺伝子では、骨転移への関与を示す結果がでており、今後解析を進めることで、より多くの骨転移関連遺伝子の同定ができると期待される。骨転移関連遺伝子を同定する事が出来れば、その骨転移における機能を明確にし、その機能を阻害することが骨転移の阻害や予防につながるかどうかを検証し、新たな治療標的薬の開発研究に繋げていきたい。
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