2011 Fiscal Year Annual Research Report
ω3系脂肪酸の代謝と生理的機能についての包括的メタボローム解析
Project Area | Machineries of bioactive lipids in homeostasis and diseases |
Project/Area Number |
22116006
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
有田 誠 東京大学, 大学院・薬学系研究科, 准教授 (80292952)
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Keywords | 生理活性物質 / 脂質メディエーター / メタボロミクス / 分析化学 |
Research Abstract |
LC-MS/MSを用いたMultiple Reaction Monitoring(MRM)により、脂肪酸代謝物を同時多項目的に検出、定量する系を構築した。MRMは、各代謝物の親イオンと、分子構造特異的な娘イオンとの組み合わせで検出を行うことで高感度に検出できる手法である。さらに代謝物ごとに時間を区切って測定することができるScheduled MRMを導入することで、400種類程度の脂肪酸代謝物を同時に検出、定量することが可能となった。定量測定を行うにはスタンダード化合物が必要であり、とくにω3系脂肪酸代謝物は市販品として手に入らないものが多い。これらの脂肪酸代謝物について、これまでに新しいスタンダード化合物を複数合成した。以上により、既知及び未知の脂肪酸代謝物について、ピコグラムレベルの高感度で一斉定量分析を行う系が確立された。さらに、ω3系脂肪酸EPA代謝物の包括的メタボローム解析から、新規の抗炎症性代謝物として17,18-diHEPEを見いだし、レゾルビンE3(RvE3)と命名した。RvE3は好中球の遊走をわずかナノモルレベルの濃度で抑制し、炎症初期の好中球浸潤を強く抑制する活性を有していた。一方、ヒトの臨床検体を用いた解析から、ステロイド抵抗性の重症喘息患者において、末梢血好酸球の12/15-リポキシゲナーゼ(12/15-LOX)活性、およびプロテクチンD1(PD1)の生成量が健常人に比べて大幅に低下していることを見いだした。なお、PD1はω3系脂肪酸DHAに由来する抗炎症性代謝物であり、12/15-LOX活性の高い好酸球がその主要な産生細胞である。重症喘息患者の好酸球でなぜ12/15-LOX活性が低下しているのか、また喘息病態の形成において脂肪酸代謝異常が関与する可能性など、新たな検討課題が見いだされた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
LC-MS/MSを用いたメタボローム解析システムは、当初100種類であった測定対象が、これまでに400種類に増え、計画通りである。また、Scheduled MRMを導入することにより検出感度の向上が認められた。また、化合物の同定および定量分析において必須である標準化合物についても、当初200種類程度であったものが、独自に合成するなどして300種類以上に拡充されている。このように網羅性の高い脂肪酸代謝物のメタボローム解析システムの確立に成功し、総説として論文発表(JB 2012)、および国内外での学会発表を行っている。また、このシステムを用いた解析から、EPA由来の新規抗炎症性メディエーターとして17,18-diHEPE(RvE3と命名)を見いだした(JBC 2012)。病態との関連性については、ヒト重症喘息患者の解析から、喘息病態における脂肪酸代謝異常(12/15-LOX系)の関与について新たな事象を見いだすに至った(JACI in press)。以上、本研究は当初の計画以上に進展し、今後の発展性が大いに期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、生体内に微量かつ一過性にしか存在しない脂肪酸代謝物を高感度かつ網羅的に測定するために、LC-MS/MSを用いたメタボローム解析システムのさらなる質の向上を目指す。また、RvE3をはじめとするω3系脂肪酸由来の抗炎症性代謝物の立体異性体や位置異性体など最終的な構造決定に関しては、マススペクトルから予想される構造式に対応する複数の異性体を有機化学的に合成し、生体由来の化合物と物理的特性、および生物活性が一致するものを探し、決定する。その後、構造活性相関の解析を通して細胞レベルでのシグナル解析および受容体の解明を目指す。病態との関連性については、重症喘息の病態形成における脂肪酸代謝異常の関与について、とくに12/15-LOX代謝系の可能性について検討する。そもそも重症喘息患者の好酸球で、なぜ12/15-LOX活性が低下しているのか、その理由について分子レベルでの解析を行う。また、12/15-LOX欠損マウスにおける喘息病態の進行について細胞、分子レベルでの解析を進める。さらに12/15-LOXが欠損することで変動する脂肪酸代謝物についてメタボローム解析を行い、喘息症状の制御に関わる活性代謝物の同定を目指す。
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Research Products
(28 results)