2011 Fiscal Year Annual Research Report
植物の低温耐性獲得および喪失における温度刺激・応答機構の高時空間分解解析
Project Area | Environmental sensing of plants: Signal perception, processing and cellular responses |
Project/Area Number |
22120003
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
上村 松生 岩手大学, 農学部, 教授 (00213398)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
河村 幸男 岩手大学, 農学部, 准教授 (10400186)
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Keywords | 低温馴化 / 凍結耐性 / 環境刺激受容 / 細胞膜 / プロテオーム |
Research Abstract |
本年度は、以下の4点について検討を行った。 1.「馴化・脱馴化の生理条件の検討」:凍結耐性は11℃より低い馴化温度で上昇することや最大凍結耐性は馴化温度がより低い方が大きくなる、ことが明らかとなった。次に光条件を検討したところ、暗所でも十分に低温馴化することが明らかとなり、この場合、凍結脱水ストレス耐性に関与する浸透圧上昇や機械ストレス耐性因子の関与が見られなかった。従って、暗所ではこれまで知られてきた凍結耐性メカニズムと異なるものがあると予想される。 2.「ルシフェラーゼ導入変異株の作成」:COR15a、ERD10、Lipocalin、PLDδは凍結脱水ストレス耐性関連因子、また、SYT1は凍結機械ストレス耐性関連因子として働く可能性が報告されてきた。一方、組織レベルでの氷晶形成制御のために、アクアポリン(特に、低温誘導生のPIP1-4とPIP2-5)を介した水分移動が生じることが予想される。そこで、これら7つのタンパク質をコードする遺伝子のプロモータ領域にルシフェラーゼをつないだコンストラクトを導入した形質転換体を作成している。 3.「凍結情報受容メカニズムの解析」:凍結耐性の高いネギを用いて蛍光染色によるER凍結動態の観察したところ、細胞周辺が凍結したと同時にERは流動を止め、フィラメント状の構造が小胞状へと変化した。このERの凍結挙動変化はシロイヌナズナ根でも観察され、植物に一般的な現象である可能性が高くなった。 4.「細胞膜の低温応答に関するプロテオーム解析」:シロイヌナズナ、ライムギ、カラスムギなどの細胞膜および細胞膜マイクロドメインにおいて、低温に応答したプロテオーム変動があることを見いだした。その変動には、植物共通に見られるものと各植物に特徴的なものが存在し、一部は凍結耐性の程度と関連していた。さらに、シロイヌナズナ培養細胞の細胞膜プロテオームの低温依存的変動には、アブシジン酸(ABA)に依存するものが多く見られ、ABAが細胞膜タンパク質の低温応答にも関わっていることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
馴化・脱馴化の生理条件の検討、凍結情報受容メカニズムの解析、および、細胞膜の低温応答に関するプロテオーム解析に関しては、当初の計画以上に進展し、複数の論文発表を行うとともに、国際会議への招待講演も複数あった。脱水と機械ストレス応答遺伝子のプロモータにルシフェラーゼを結合したコンストラクトを導入した植物体を用いて、低温・凍結過程で各器官・組織・細胞の両ストレスがどのようにかかるのかを見る実験は、導入植物体の作成が若干遅れており、その結果は平成24年度以降に持ち越された。しかし、平成23年度末には植物体の作成に目処がついたので、次年度以降、順調に結果が出てくるものと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度以降は、ルシフェラーゼ導入株およびそのEMS変異体ラインを用いて、低温馴化や脱馴化過程における脱水及び機械ストレス応答遺伝子の高時間・高空間分解能発現解析を行う。特徴的なLUC発現パターンが見られた器官・組織・細胞を切り出し遺伝子発現の差異をマイクロアレイにより網羅的に解析し、さらに、下流における応答の差異を同一器官・組織を用いてのプロテオーム解析(オルガネラレベル)する。凍結耐性変異体ラインで興味深い結果が得られた時には変異座の決定を行い、遺伝子機能の解析を実施する。以上の実験で見いだされる新奇凍結耐性因子に関しては、形質転換体実験によりモデル植物から農作物への展開可能性も探る。
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Research Products
(23 results)