2013 Fiscal Year Annual Research Report
フェムト秒レーザーを駆使した植物細胞の局所操作と刺激法の開発
Project Area | Environmental sensing of plants: Signal perception, processing and cellular responses |
Project/Area Number |
22120010
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
細川 陽一郎 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 准教授 (20448088)
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Project Period (FY) |
2010-06-23 – 2015-03-31
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Keywords | フェムト秒レーザー / 植物細胞 / レーザーマイクロダイセクション / レーザー細胞操作 / レーザー衝撃波 |
Research Abstract |
水中にポリスチレン微小球を分散させた試料を細胞培養用のガラスボトムディッシュに入れ、そこにフェムト秒レーザーを集光照射すると、集光点で発生する衝撃力により、微小球は移動する。本研究では、レーザー照射前の微小球の位置(X)とレーザー照射前と照射後の微小球の変位(ΔX)の関係を調べる実験系を構築し、さらにXとΔXの関係を調べるための専用ソフトを作製し、一つの実験条件で、1000個以上の微粒子に対するXとΔXの関係を調べることに成功した。得られた関係を解析するために、衝撃力と水の粘性抵抗を考慮した運動方程式を構築してこの運動方程式を数値計算により解き、実験結果で得られたXとΔXの関係を照合することにより、微小球に作用する衝撃力の時間変化を定量評価することに成功した。さらに原子間力顕微鏡により得られている衝撃力のモデルと整合性をとることができた。これらの結果をもとに、葉緑体からペルオキシソームを剥離するために必要な衝撃力は、明状態で60 fN/nm^2程度、暗状態で20 fN/nm^2程度であることが示された。 植物試料の浸透圧を調整し、膨圧を緩和した植物細胞に対してフェムト秒レーザーを集光照射することにより、標的とした単一の植物細胞へ遺伝子を導入することを試みた。タバコBY2細胞を蛍光標識したデキストランと高濃度マンニトールを加えた溶液に浸し、レーザー照射条件を検討した結果、タバコBY2細胞に対してデキストランをレーザー照射により導入することに成功した。さらに同じレーザー照射条件でGFP遺伝子の導入を検討した結果、GFP遺伝子をタバコBY2細胞内に導入し、さらに1日培養することによりGFPの発現を確認することができた。さらに、タマネギとシロイヌナズナに対しても同様の実験をおこない、両者でBY2細胞と同様にデキストランを導入することに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本来、葉緑体とペルオキシソームの接着力を評価するためには、葉緑体とペルオキシソームとの間の接着ポテンシャルを推定する必要があり、そのためには参照実験として、接着蛋白質により吸着したポリスチレン微小球にフェムト秒レーザー誘起衝撃力を作用させ、衝撃力の作用と同時に、ポリスチレン微小球の接着ポテンシャルを推定する必要がある。しかしながら、安定にかつ再現性よくポリスチレン微小球を基板に接着させることに難航しており、次年度の課題となった。一方で、本年度の実験で導かれた「fN/nm^2程度の力で葉緑体からペルオキシソームが乖離する」という結果は非常に興味深いものである。室温での分子の熱揺らぎを考えると、一つの蛋白質分子同士の結合を引きはがすためにはpN程度の力が必要になるが、本実験で得られた結果はnmサイズである分子あたりにfN程度の力を加えられたときに葉緑体からペルオキシソームが乖離するという結果である。これは一見、矛盾をきたす結果であるが、力の集中(応力集中)を考慮すると妥当な結果であると考えられる。本研究により生体に対する力の作用を考えるとき、応力集中が極めて重要であることが示唆されたことは、現在のメカノバイオロジーの展開を考慮しても意義深い結果であると考える。 昨年度の交付申請書では、植物細胞への遺伝子導入を外圧の制御により細胞内の膨圧を緩和することにより達成しようと考えていたが、浸透圧調整による制御に方針を切り替えた。結果としてタバコBY2細胞に対して、遺伝子導入のみならず発現を確認するまでの成果をえるまでに至った。フェムト秒レーザーにより植物細胞に遺伝子を導入し、発現させることができたのは本研究が世界初となる。
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Strategy for Future Research Activity |
上記記載の通り、安定かつ再現性よくポリスチレン微小球を基板に接着させることに難航しており、まずはこの問題を解決することが不可欠である。これまで、接着蛋白質をポリスチレン微小球と基板に、静電吸着により接着していたが、安定を図るために化学反応により接着蛋白質をポリスチレン微小球と基板に共有結合で接着させることを試みる。これにより、ポリスチレン微小球と基板の間の蛋白質の結合が安定に乖離する系を構築し、その剥離挙動を解析することにより、植物細胞内の小器官の蛋白質同士による結合、さらには細胞同士のポテンシャルを推定できるようにする。 植物細胞内の遺伝子導入について昨年度、シロイヌナズナやタマネギについても検討を進めたが、GFP遺伝子を導入し発現させることができなかった。これらの場合においても細胞のもつ膨圧を解消するために、バッファに高濃度のマンニトールを添加して浸透圧調整を行ったが、この浸透圧調整により細胞の活性を低下させてしまったがため、GFP遺伝子を導入できたものの、発現させることができなかった可能性が考えられる。本年度は、昨年作製した外圧制御システムを浸透圧調整と併用することにより、植物細胞の負担を軽減し、高等植物で遺伝子を発現させることを試みる。 さらに顕微鏡下で試料を凍結させるシステムの開発にも成功しており、細胞内、細胞外での氷結晶発生を制御しながら直接観察し、植物細胞の耐凍性と氷結晶発生と関わりについて調べていく。
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Research Products
(37 results)
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[Journal Article] In situ laser micropatterning of proteins for dynamically arranging living cells2013
Author(s)
*Kazunori Okano, Ai Matsui, Yasuyo Maezawa, Ping-Yu Hee, Mie Matsubara, Hideaki Yamamoto, Yoichiroh Hosokawa, Hiroshi Tsubokawa, Yaw-Kuen Li, Fu-Jen Kao, Hiroshi Masuhara
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Journal Title
Lab Chip.
Volume: Vol. 13, No. 20
Pages: pp.4078-4086
DOI
Peer Reviewed
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