2011 Fiscal Year Annual Research Report
胎生期大脳新皮質神経幹細胞による多様な細胞の産生機構の解析
Project Area | Neural Diversity and Neocortical Organization |
Project/Area Number |
22123003
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
後藤 由季子 東京大学, 分子細胞生物学研究所, 教授 (70252525)
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Keywords | 神経幹細胞 / ニューロンサブタイプ / クロマチン状態 |
Research Abstract |
大脳新皮質は多くの異なる種類のニューロンとグリア細胞等から構成され、それらが正確に配置されることで機能する。脳発生過程において、各種ニューロンとグリアは共通の前駆細胞(神経系前駆細胞)から決まった順序で次々と産み出される。本年度は(1)神経系前駆細胞が発生早期にニューロン分化する能力を持つために重要な遺伝子の探索、と(2)神経系前駆細胞がニューロン分化した後に皮質板に向かって移動の開始を行うメカニズムの解析、について報告する。 (1)大脳新皮質神経系前駆細胞において、プロニューラル転写因子Neurog1, Neurog2の発現上昇がニューロン分化運命決定に重要である事が示されている。しかしこれらがなぜ発生早期にのみ発現出来るかについては明らかではなかった。我々は最近、発生早期の神経系前駆細胞においてHMGA1, HMGA2というクロマチン結合分子が高いレベルで発現しており、これらがクロマチン状態をグローバルに脱凝集させると共にニューロン分化能を与える事を報告した。 (2)神経系前駆細胞がニューロンに分化運命を決定すると、放射状に移動を開始する。この移動開始に先立って脳室面から離脱する必要があるが、そのメカニズムは明らかではなかった。我々は、プロニューラル転写因子の下流でScratch1, Scratch2の発現が誘導される事によって、脳室面からの離脱が誘導される事を明らかにした(Itoh et al. Nat. Neurosci. 2013)。ScratchはSnail superfamilyに属し、Snailと同様にE-cadherinの転写を抑制することで脳室面における細胞間接着を解離させること、それによって移動を開始させることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
計画当初、神経系前駆細胞の分化ポテンシャルを制御する因子の候補としてHMGAタンパク質を同定していたが、そのターゲットを含む具体的な分子機能については全く分かっていなかった。計画通り我々はHMGA1, HMGA2のクロマチン状態をグローバルに脱凝集させる効果とニューロン分化能を与える性質について明らかにし、論文報告した(Kishi et al. Nat. Neurosci. 2012)。更にそれに加え、HMGA1, HMGA2の下流でニューロン分化能を獲得するために重要なエフェクターを同定することに成功した。発生早期の大脳新皮質神経系前駆細胞において高いレベルで発現しており、かつHMGA2過剰発現で発現レベルが上昇する遺伝子群を同定し、その中でニューロン分化能を促進する活性を持つものを調べたところ、IMP2を新規に同定した (Fujii et al. Genes to Cells 2013)。IMP2は過剰発現で後期神経系前駆細胞のニューロン分化能を促進し、アストロサイト分化を抑制した。逆にIMP2をノックダウンすると早期神経系前駆細胞のニューロン分化能が抑制され、アストロサイト分化が促進した。以上の結果はHMGA2と同様に、下流で発現制御されるIMP2も発生時期依存的な神経系前駆細胞の運命制御に関わっている事を示唆している。
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Strategy for Future Research Activity |
HMGAのエフェクター分子について更に探索し、ニューロン分化能を規程するメカニズムの全体像の理解に近づける。また、計画以上に進んでいる別の点として、大脳新皮質発生においてニューロン分化決定後に移動開始を誘導する因子Scratch1, 2を同定した(Itoh et al. Nat. Neurosci. 2013)。この因子が大脳新皮質のみならず、他の中枢神経系の部位についても同様の機能を果たしているかを更に検討する予定である。細胞周期制御因子の分化運命への影響についても引き続き検討する。
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Research Products
(23 results)