2012 Fiscal Year Annual Research Report
Role of stress-induced epigenetic change in genome adaptation
Project Area | Systematic study of chromosome adaptation |
Project/Area Number |
22125005
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
石井 俊輔 独立行政法人理化学研究所, 石井分子遺伝学研究室, 上席研究員 (00124785)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ストレス / 遺伝 / エピジェネティクス / ATF-2 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、様々なストレスにより生じるエピジェネティック変化が遺伝し得るか、また遺伝するとすれば、そのメカニズムを明らかにすることを目的としている。これまでにショウジョウバエ転写因子dATF-2がヒストンH3K9トリメチル化酵素をリクルートして、ヘテロクロマチン構造の形成と維持に関与すること、熱ショックストレスなどの環境ストレスでdATF-2がリン酸化されるとヘテロクロマチン構造が壊れ、その状態が次世代に遺伝することを報告している。今年度は、栄養ストレスの影響について解析した。高栄養状態ではミトコンドリアでの酸化的リン酸化が亢進し、活性酸素(ROS)レベルが上昇し、p38によるATF-2ファミリー転写因子のリン酸化が上昇する。雄ショウジョウバエを高栄養状態で飼育すると、次世代において約300個の遺伝子の発現が有意に上昇し、これらの遺伝子発現変化はdATF-2変異体を用いた時には見られなかった。この結果は栄養ストレスによって誘導される、遺伝可能なエピゲノム変化は、その殆どがdATF-2によって仲介されることを示唆している。一方マウスを用いて低タンパク質飼料による次世代での遺伝子発現変化を解析した。低タンパク質飼料では、グルタチオンレベルが低下し、相対的にROSレベルが上昇し、リン酸化ATF-7のレベルが上昇すると考えられる。野生型マウスでは雄マウスへの低タンパク質飼料の投与により、次世代の肝臓では約1000個の遺伝子の発現上昇が観察された。一方ATF-7ヘテロ変異マウスで同様の実験を行うと、これらの殆どの遺伝子の発現上昇は観察されなかった。以上の結果は、栄養ストレスの影響が遺伝する現象において、ATF-2ファミリー転写因子が中心的な役割を果たしていることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度までは、ショウジョウバエのヘテロクロマチンを用いたPEV(position effect variegation)アッセイ系、いわゆるモデル系を用いて、環境ストレスが、ATF-2依存的にエピゲノム変化を誘導し、それが次世代に遺伝する事を明らかにした。本年度は、熱ショックストレスなどの環境ストレスによる遺伝子発現変化が次世代に遺伝し、それがATF-2に依存することを明らかにすることができた。また、栄養ストレスによる遺伝子発現変化も次世代に遺伝し、同様にATF-2に依存することを明らかにした。さらにマウスにおいても、ATF-2ファミリー転写因子メンバーATF-7が、栄養ストレスによる遺伝子発現変化の遺伝に関与することを明らかにすることができた。以上のように、ストレスによる具体的な遺伝子発現変化の遺伝に、ATF-2ファミリー転写因子が関与することを明らかにでき、研究が順調に遂行された。
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Strategy for Future Research Activity |
様々なストレスにより、ATF-2依存的に誘導されるエピゲノム変化が世代を超えて遺伝するメカニズムを明らかにすることが重要である。そのためには、精細胞においてATF-2ファミリー転写因子が直接結合する遺伝子を同定し、それらのエピゲノム状態がストレスによりどのように変化するかを解析し、そして成熟精子にどのようなエピゲノム情報として伝達されるかを明らかにすることが必要である。さらに、環境ストレスや栄養ストレスに加え、精神ストレス、病原体感染ストレス、そして日周リズム変化ストレスなどの影響も調べる必要がある。
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