2012 Fiscal Year Annual Research Report
Coevolution between HLA and bacteria or viruses
Project Area | HLA polymorphism, disease and evolution |
Project/Area Number |
22133007
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Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
颯田 葉子 総合研究大学院大学, 先導科学研究科, 教授 (20222010)
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Project Period (FY) |
2010-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 進化 / HLAハプロタイプ / 環境 / ゲノム / 細菌・ウイルス |
Outline of Annual Research Achievements |
現在のHLAの多様性は過去数百万年からそれ以上にわたりアフリカという環境の中でヒトが出会った細菌やウィルス等のパソジェンとの共進化の結果出来上がってきた。しかし、現生人類の集団は、HLAの歴史に比較すると非常に短時間であり、その間にアフリカから全世界へ生息環境を拡大させていった。その過程で、アフリカでは出会うことのない地域特異的なウィルスや細菌に遭遇しそれらの新たなパソジェンにも適応していったことは想像に難くない。長い時間をかけて作り上げられてきた多様性と、短期間で適応する必要があった地域の特性という、異なる進化学的な力のもとで、どのようにして現在のHLA の多様性が形成されてきたかをHLAのハプロタイプという観点から特に民族特異的なハプロタイプに着目し、その歴史を明らかにするとともに、ハプロタイプの多様性について、その維持機構を集団レベルと分子レベルの両面から明らかにする。そのために本年度は、HLAに働く自然選択の強度推定、HLAのペプチド結合領域の進化パターンを明らかにすること、HLAハプロタイプを形成するブロックの解析、および、多型を形成維持する進化メカニズムの検討をコンピュータシミュレーションを通しておこなった。
1) HLAに働く自然選択の強度推定に関しては、結果をまとめた。結果は国際誌(Immunogenetics) に掲載された。 2) HLAのペプチド結合領域(PBR)でのアミノ酸置換のパターンは、アミノ酸置換率が時間依存的あるいは系統依存的に変化している可能性を示唆するデータを得ており、 現在投稿を準備しているところである。。 3) HLAハプロタイプを形成するブロックの解析では現在ブロックの同定まで進んでいる。4) 多型を形成維持する進化メカニズムについては、現在、対称型と非対称型の超優性の二つのモデルの比較を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた5年間で達成すべき5課題の半分以上にあたる3研究課題を遂行し、それぞれ結果を得てきていることから、研究は概ね順調に進展していると判断される。
1) ペプチド結合領域でのアミノ酸置換:平衡選択の標的領域としてペプチド結合領域(PBR)のアミノ酸置換速度の加速等について解析を行った。PBRでのアミノ酸置換速度は一定ではなく、系統ごとに置換速度が減速することがあることを示した(投稿準備中)。 2) HLAの各遺伝子座に関わる進化学的パラメータの再推定:HLA対立遺伝子の大量の配列データの基づき突然変異率や自然選択の強度の再推定を行い、20年前の限られたデータを用いた時の推定値との比較を行った。結果は、データ量は増えたが稀少な対立遺伝子や、地域特異的な対立遺伝子の配列が増えており、パラメータ推定に重要な役割を果たす、比較的頻度の高い対立遺伝子の数は20年前とほとんど変わっておらず、パラメータの推定値はほとんど変わらなかった (国際誌に掲載)。 3) HLAの多型維持に関わる自然選択のモデルの比較:HLAに働く自然選択モデルとして広く受け入れられている平衡選択には、ヘテロ接合度の適応度に差を導入する、Divergent Allele Advantage (DAA) モデル とヘテロ接合度は一様にホモ接合体よりも大きな適応度を持つとする対称性の超優性(Symmentrical Over Dominance:SOD)モデルがある。一般に、DAAモデルでは究極的に二つの対立遺伝子系統が維持されれば良いことが期待され、実際のMHCで観察される様な対立遺伝子数や高いヘテロ接合度、分岐時間との整合性がどの程度であるかについての検討が必要である。そのため、SODとDAAモデルの基でのさまざまなパラメータの値をコンピュータシミュレーションを用いて比較している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は以下に揚げる4研究課題を遂行していく。 ① 対立遺伝子とペプチド結合能に関するモデル比較:コンピュータシミュレーションを用いて、DAAモデルとSOD モデルについて、対立遺伝子数、分岐時間、塩基置換速度の加速等のパラメータの比較をおこない、データとの整合性を判断する。この研究課題は平成24年度からの継続で行い、25年度中には成果をまとめて、国際誌に投稿する。 ② 結合ペプチド予測のプログラムを用いて、対立遺伝子が結合できるペプチドの種類を同定し、対立遺伝子間でのオーバーラップの程度を明らかにすると同時に、チンパンジーやマカク MHCでの結合ペプチドとHLAの結合ペプチドの違いを定量化する。さらに、ハプロタイプ単位で連鎖している遺伝子座の対立遺伝子間でのオーバーラップの程度を見積もり、ハプロタイプとしてのペプチド結合能の定量化にも取り組む。 ③ 日本人に特異的なハプロタイプの解析: SNPのデータに基づきハプロタイプ内とハプロタイプ間の塩基多様度の違いを定量化する。さらに、ハプロタイプ上の対立遺伝子の分岐時間を推定し、ハプロタイプの形成時期の推定に利用する。さらに、欧米の8つのハプロタイプのデータを加えて、日本人と欧米人それぞれのハプロタイプに維持されている変異の特徴の相違点、共通点を明らかにする。 ④ ハプロタイプの維持機構の解明:コンピュータシミュレーション解析の予備調査を行う。連鎖している、遺伝子座に働く平衡選択と、負の自然選択、中立な変異がどのように集団中の変異に影響を与えるかを見積もるためにまず、2遺伝子座連鎖のモデルで小規模なシミュレーション実験を行う。その後、小規模なシミュレーション実験の規模を拡大するととも、上記②で明らかにする予定のハプロタイプの結合ペプチドの量や種類と自然選択の強度の関連を取り入れたハプロタイプの維持機構に関するモデルを構築する。。
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Research Products
(5 results)