2011 Fiscal Year Annual Research Report
メタボローム解析に基づくがんの代謝の理解、診断法の開発
Project Area | Integrative Systems Understanding of Cancer for Advanced Diagnosis, Therapy and Prevention |
Project/Area Number |
22134007
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
曽我 朋義 慶應義塾大学, 環境情報学部, 教授 (60338217)
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Keywords | 癌 / 生体分子 / バイオテクノロジー |
Research Abstract |
本研究では、最先端技術であるメタボローム解析とシステム生物学的解析によって、がん細胞のエネルギー生産経路を特定し、化学療法の標的を探索をめざす。本年度は、メタボローム測定法の高感度化の開発を行った。また3種類の腎臓がん患者から採取した正常およびがん組織のメタボロームとプロテオーム解析、4種類の腎臓がんの培養細胞のメタボローム解析を行い、腎臓がん特異的な代謝を解明した。 1.メタボローム解析技術の高感度化 現在のメタボローム測定法(シースフローCE-TOFMS)を高感度化するため、シースレスCE-TOFMSを開発した。従来のシースフロー方式では、MS導入時にスプレーを手助けするためのシース液で希釈され、感度が低下した。Beckmanで開発されたCE-MSシースレスインターフェースを導入し、測定条件を検討した結果、質量が200以上の陽イオン性代謝物質は、数倍から30倍の高感度化が達成された。しかし、測定の再現性など改善しなければならない課題も見つかった。また、従来のシースフロー方式においても、CEを三連四重極質量分析計への接続を行い、数~十倍程度の高感度化が可能であることを確認した。 2.腎臓がんおよび正常組織、培養細胞の代謝解析 淡明細胞型、乳頭状、嫌食素性の3種の腎臓のがん組織と正常組織のメタボロームおよびプロテオーム解析を行った。がん腫の違いによってTCA回路などの変動が異なっていることが判明した。一方どのがん腫でも解糖系,ペントースリン酸回路、グルタチオン合成経路の亢進が観察された。またCaki-1、Caki-2、786-O、796-Pの4種の腎臓がんの培養細胞を用い、Cの1位と5位が13Cに置換されたグルタミンを用いて、がん細胞で特異的に亢進するグルタミノリシスの代謝を解明した。その結果、この経路ががん細胞の脂質合成に必要なクエン酸合成の主要な経路であることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者らが開発し続けているCE-MS法によるメタボローム測定技術は、網羅性、定量性、感度、スループットの面で世界で最高のレベルにあり、組織や細胞の中心代謝経路を解析するためのツールとしては最適である。またこの装置を40数台保有しており、メタボローム解析においては世界最大の解析力を誇る。 がんの代謝研究に関しては、Nature、Cell、Scienceやその姉妹誌などに新しい知見が毎週のように報告されており、がん研究においてホットな分野である。しかし、日本発の論文はほとんどなく、この分野では欧米に比べて大きく遅れている。 本研究課題では、研究代表者らが開発したメタボローム解析および公募班の杉山直幸らが開発した最先端のプロテオーム解析技術を用いて、各種のがん患者から採取した正常およびがん組織の網羅解析、さらには培養細胞の網羅解析を行って、がんが増殖や転移する際に必要とするがん細胞特異的な代謝経路を発見し、化学療法の標的分子を探索しようとするものである。実際に腎臓がんに関しては、これまでの研究でがん特異的な経路が幾つか明らかになっている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題では、極微小細胞の計測の実現を目指した高感度メタボローム解析技術を引き続き開発する。 この手法をがんの代謝解明に応用する。腎臓がんに関しては、臨床検体の解析で得られたがん組織特異的な代謝経路を検証するため、今後は、培養細胞を用いた生化学および分子生物学的な実験とシステム生物学的な解析を用いて、がんが増殖や転移する際に必要とするエネルギー生産経路を特定する。また核酸、タンパク質、脂質、グルタチオンなどのバイオマス生産経路やがんの生存戦略に関わる分子ネットワークを抽出し、効率的な抗がん剤の新規ターゲットの発見を目指す。
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Research Products
(34 results)