2022 Fiscal Year Annual Research Report
逆推定法を利用した太平洋大規模循環・変動と沿岸水の関わりの解明
Project Area | Macro coastal oceanography: integrated simulation for the material dynamics from the land through the open ocean |
Project/Area Number |
22H05207
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
纐纈 慎也 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(海洋観測研究センター), センター長代理 (30421887)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
増田 周平 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(海洋観測研究センター), 部門長 (30358767)
山本 彬友 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(環境変動予測研究センター), 特任研究員 (30794680)
建部 洋晶 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(環境変動予測研究センター), グループリーダー (40466876)
長船 哲史 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(海洋観測研究センター), 研究員 (50638723)
土居 知将 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(海洋観測研究センター), 准研究主任 (70426295)
安中 さやか 東北大学, 理学研究科, 教授 (80620393)
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Project Period (FY) |
2022-06-16 – 2027-03-31
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Keywords | 海洋循環 / 物質循環 / 淡水収支 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、データ同化システムについては既存のシステムの外洋域での精度の洗い出し、改修を行った。外洋域の物理循環については内部の水平拡散スキームの見直しを進めた。近年の観測データを安定的にモデルに取り込むデータ同化実験のため、これら新スキームを利用して初期値推定を行い良好な結果を得ている。物質循環については溶存鉄を対象として、海底からの溶出、火山の効果を考慮できるようにした。前者は沿岸域の効果として特に重要となる。栄養塩についても同様に全球全層を対象とした栄養塩の保存性を保ちデータ同化するため緩和スキーム(内部のソースとなる)領域を極力減らすための改修を行っている。 予測モデルについては気候システムモデルに組み込まれる渦許容解像度海洋物理循環・物質循環の開発・実行を行った。その結果、現状で全球塩分の保存性が十分ではなく、沿岸部からの流入など収支に対して問題があることが認識された。モデルシステムを検討し改善点を明確にすることで、再計算を滞りなく進めることができている。 これらシステム開発に加えてデータ解析も進めた。データ同化データ解析からは、全球水収支に特異な11年の周期変動を見出した。この変動は太陽活動と関係するという仮説を得ている。また、データ同化システムによる溶存鉄の海盆スケールの収支を各プロセスごとに整理した。この結果は、沿岸部の溶出の影響を評価する素地となるものであった。さらに、予測モデルの基盤となる地球システムモデルの過去再現実験から、河川及び大気を通じた陸域の海洋への物質移入による海洋の富栄養化効果が近年の温暖化による成層強化による海洋生産性の抑制を逓減している可能性を示した。これらに、黒潮・黒潮続流、親潮域や、沿岸の影響が強い縁辺海の変動などの過去の観測を中心とした解析を進め、粗い解像度のモデルと観測データの比較について基礎的な情報を得ている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
データ同化システムの改修について、ポスドク研究員の採用が不可抗力的に進まず繰越を行ったが、外洋域の精度を高める改修を先に行うことで効率的に進めることとした。実際に外洋域での水平拡散の見直しにより大規模塩分場が改善することを確認している。また、物質循環場も溶存鉄を対象に外洋域の収支を整理し沿岸域の溶出推定の素地ヲ整えることができた。なお、繰越によりデータ同化システムの改修にあたる人員を当て、実際に十分進めることができている。 予測モデル開発については沿岸域のより高解像度モデルの結果と比較を容易にするため渦許容モデルを導入しその初期実験を行った。塩分収支に関して軽微ながら明確な問題点を得てその改善も速やかに行えており翌年以降の長期実験実行へ進める目途が立っている。 以上の点から、データ同化システム、予測モデルの開発研究は比較的順調であると評価している。 加えて、既存データの洗い出しによって全球淡水収支に陸域と関係すると考えられる特徴的な変化を見出した成果や、予測モデルをベースとした過去再現実験により、陸域から海にもたらされる栄養物質の負荷が海盆スケールの長期生産性の変動に表れている可能性があることなどを示す成果を得られており、大きなスケールの外洋変動に陸域影響の変動が加わっていることが確認されており、陸域から外洋への交換効果の最も大まかな効果の評価が進んだ点は順調である。これらに加えて、黒潮・親潮、亜熱帯再循環域から黒潮にむけて輸送されるモード水変動や縁辺海の変動の解析に着手しており、外洋側のより沿岸に近い変動研究を進めることで沿岸・外洋交換の変動理解への素地を整えつつあり、比較的順調ととらえている。
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Strategy for Future Research Activity |
データ同化システムについては、新たな水平拡散スキームの導入により海盆スケールの塩分分布が改善すること、また、各種スキームのパラメータ推定により全球溶存鉄分布の再現実験を基にした各スキームの効果の評価ができていることから、このシステムに沿岸での塩分(淡水)や物質の源を緩和的に与えることで簡易的に沿岸の効果を表すことで逆推定可能を行うシステム改修を進める。 予測モデル開発については、当初予定通り、渦許容レベルの解像度(水平0.25°)の実行をさらに進めることで沿岸を解像するモデルの結果との比較を容易にするよう準備を進める。 これらに加え、全球水収支の長期変動や海洋の長期の栄養物質収支に陸域影響が現れる結果を踏まえて、その仕組みの理解や、将来予測における変動解析をすすめることで最も大枠での陸域影響の海洋への反映、外洋と沿岸の間の交換の影響評価を進める。 加えて、縁辺海や西岸境界域、亜熱帯再循環域のデータ解析を進めることで、粗い解像度のモデルでは十分再現できない可能性もある現象を考慮に入れ、大規模スケールの変動と沿岸の間にある現象の洗い出しを進める。
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